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夢を託す
なんでこうなったかっていうとラムダに実験しまくったエメロードさん達が悪い気が激しくするんだけど、俺わりと博愛主義ってか勝手に悪者って決めつけると痛い目にあうよねーみたいな例を人より見てる感じなんで、何が言いたいかって。
なにこの理不尽。

(あーくそ泣いちゃ駄目だ泣くな泣くな泣くな!)

まぁ俺泣き虫なんで無理ですけど!
半強制的に見せられたラムダの記憶、全員が認識したそれのせいでなんとなく空気が重い。壊さなくちゃなんだけどちょっと、今、無理。うずくまって声抑えるだけで精一杯です。
アスベルが落ち込んだ声で言った。この記憶を見せられ始めたあたりから、アスベルは少し内側でぐるぐるしてる感じだ。

「……俺が苦しんでいた時、俺にはソフィや教官、みんながいてくれたから一人にならずに済みました。けど、ラムダは……」

決定的に徹底的にひとり。

「では聞くが、お前にオレやソフィが手を差し伸べていなかったらお前はどうしていた? 人を恨んだか? 全てを破壊したというのか?」

教官のきつい声が飛ぶ。アスベルはそんなことしないって信じてるんだ。教官はアスベルを知ってるし信じてる。

「していました。たぶん……ですけど」

でもアスベルは肯定を返した。

「ふざけるな」
「しかし……」
「ふざけるなと言っている。まだ言うのか」

人間がいざとなったら何だってできることは教官も承知だ。むしろ俺よりよく知ってるはずだ。
それでもアスベルに否定を返して欲しかった理由は、

───アスベルにお綺麗なセイギのミカタのお人形でいてほしいから?

イカロスが囁いた。

「それでも、やはり自信をもってしなかったとは言えません」

自分が汚いことをある意味よく理解してるアスベルが、やっぱり否定は返さなかった。
教官が溜め息を吐いて、わかった、と言った。

「その時は……オレがお前の傍に行って説教してやる。だから、お前がそんなことで悩むな」

あっは、かっこいい教官。
アスベルが苦笑した。やっと笑ったよこのやろー。

「むちゃくちゃですね」
「それでもだ」

むきになったらしい教官にアスベルが笑った。俺もこっそり笑って溜め息を吐く。
ここはゲームの世界、こいつらは誰かの作ったキャラクター。過去も現在も未来も全部カミサマたるクリエイターの手の上。

「……アスベルに夢を見たいのは俺だよ、イカロス」

世界を救う英雄。世界イチ強い勇者サマ。
そいつがうっかり悪の道に行くなんて許されない。
でもここにいるこいつらは、あまりにも、リアルだ。

「……アスベル」
「ん?」

振り返ったアスベルに、ちゃんと笑ってられた自信がない。

「それでも俺は、お前はそんなことしないって思うよ」

俺が信じてる「アスベル・ラント」が、ゲームのキャラクターじゃなくて、今「ありがとう」って言って苦笑いしたアスベルだって信じたい。


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