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千年前の真実
※ムービーを見た作者の想像が多分に含まれています。製作者の意図と違う描写があることはご了承ください。









『我』は別のものとその配下に『苦痛』というものを覚え込まされた。
だからこそ芽生えた『力』だった。そしてそれを振るうことに疑問を覚えることはなかった。
だがしかし『我』は施設の限られた区画しか連れ入れられたことがなく、『我』の意識下にあるものたちは自分の居場所など意識したことのないものがほとんどであり、よって無差別に『ヒト』と呼ばれるものを襲う他になかったのである。
そのもの(コーネル、というのが『名』であることを理解したのはつい最近であった)が何かの『苦痛』を抱えていることは理解していたが、それが何であるかまでは理解が及ばなんだ。
己が原因であるとすれば力を振るうことを止めただろうか───否。
外敵を排するはイキモノの本能、知ったとして停止は出来ぬ。
外敵は強大であった。
コーネルすら排した外敵は、『我』をかりそめの体から引き剥がした。
かりそめの視覚に最後に映ったのは、嗤う外敵の顔だった。






『我』はふたたびあのかりそめの体を手に入れた。
ヒトに似せた器はその場より逃れるに良いかと思われたが、外敵の手のものと思われるそれらはこの器を見分ける術を持つらしい。
変わらず与えられる『苦痛』と『害意』は『我』の未だ脆弱な精神を叩きのめした。

『ラムダ!』

累々とヒトが倒れ伏す中、唯一身を起こしているそれをコーネルと認識するのに時間がかかる程度に、『我』の意識は器から遠ざかっていたようだった。
悪夢のようだ、と評するだけの知識は生憎持ち合わせていなかった。その上悪夢はまだ続くのだ。

『かわいそうに……すっかり怯えて』

横たわる同族が目に入らぬでもあるまいに、それでもコーネルは『我』に手を伸べた。

『だが安心しろ。私がお前を守ってやる。何があっても。
だから頼む。もう一度私のことを信じてくれ。お願いだ……』

『我』がその手を取らぬうちに外敵の声が飛んだ。

『所長、勝手な事をされては困りますね』
『エメロード君!?』
『これだけの惨状を目にして、まだラムダを庇おうというのですか』

外敵を目にすることすら恐ろしかった『我』は、ただ萎縮した。───その時あれを貫いておればよかったと何度思ったことか。

『全ての準備は整いました。ラムダはここで始末します』
『───いいや、どかん!』

す、と視界に影が差した。
コーネルの背であった。

『私はラムダを守る。何があろうと守ってみせる!』

背はこの世の何物より広く大きいように思えた。

『私を信じろ……ラムダ』

その表情を真似ればあのあたたかいものをくれるのだろうか。だが『我』にはそれを目にするだけであれと同じものが奥底から沸き上がってくるのを感じていた。

『仕方がありませんね。手荒な真似はしたくありませんでしたが』

外敵の声が聞こえた。
そしてコーネルが苦痛に満ちた声を上げた。






その後のことはよく覚えておらぬ。
ただコーネルに走れと言われた方に走り、あれの『死』を見たことはよく覚えている。

『生きろ……ラムダ……』

『生きる』という言葉の意味すら理解しないまま、『我』は一人残された。


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