[携帯モード] [URL送信]
千年前の事実
※ムービーを見た作者の想像が多分に含まれています。製作者の意図と違う描写があることはご了承ください。









思い出はセピアがかかる。古いものであれば尚更。
千年を数えた過去の中で覚えているのは、初めて『目を開けた』ときに見た笑顔と、それから赤。






ことり、と積み木を重ねる。
意味はなかった。やってごらん、と促されたように木の塊を積んで、一つずつ下ろし、また積む。
時折『腕』に当たって崩れてしまう脆いばかりの造形を、作っては崩すのは他にこの新たな『体』の扱いを知らないからだった。

『ラムダ』

覚えのある声だ。視覚に入れるためには首を巡らさなければならない。だからそうすると、覚えのある声を発するものがこちらに近寄ってきた。

『積み木で遊んでいたのか。よしよし』

そのものはそう言ってそのものの手でこの体の頂点をゆるく揺らした。
その行為の意味も名も知らなかったが、それがあるとこのかりそめの体が温まるような気がした。温かいということは生きているということである。自我が生まれて間もない『我』は、このものの側であれば生きてゆかれることを、体を与えられて間もなく理解した。

『褒められて嬉しくないのか?
嬉しいときはこうするんだ』

そしてそのものの真似をするとそれが与えられることを覚えた。

『ははは、ぎこちないがまぁいいだろう。いずれ自然にできるようになる』

『我』にとってそれはまだ生きるための知恵以外の何物でもなかった。

『コーネル所長』
『おお、エメロード君か』

別のものが近寄ってきた。
別のものは敵対するものであった。明確な害はなかったがいずれそうなることは予感できた。しかし未だこの『体』に慣れず、己の力を掴み切れなかった当時は、ただ動かぬようにする以外の自衛の術を持たなかった。

『所長、私はやはりこのやり方には賛同できません。我々の研究目的は、星の核で発見されたラムダの能力を研究する事だった筈です。情操の形成ではありません。これを続けていると倫理規定に抵触する恐れがあります』
『倫理か……。
泣いたり笑ったり……そういった当たり前の感情すら、この子に与えてはいけないのか?』
『そうはいいますが、このボディはあくまで研究用として、便宜的に与えた物に過ぎません』
『器が魂を形成することもあるのだよ。見たまえこの子を。日に日に人間らしく成長しているではないか』

『我』は別のものの目線から逃れるように積み木を崩し始めた。これを組み終われば、そのものがまたあれを与えてくれると考えたからだ。

『エメロード君。実は私は、この子を通じて試みたいことがあるのだ。
もしかしたらこの子はヒューマノイドの枠を超えた新たな存在になるかもしれない。この子は我々にとって未来の可能性そのものなのだよ』
『はぁ……』
『ラムダにはもっと多くの事を学ばせる必要がある。そしてのびのびと育ってほしい。そう、人間そのものとしてな』

そしてそのものが自らの命綱であることもその時点で理解していた。


[→]

1/21ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!