今は眠るといい
「寝ないんですかー教官」
「ゆきみちか」
川をまたいだ橋の上で、教官が遠くを見ていた。
「お前はどうした。眠れないのか?」
「寝たくないんです」
なんだかもったいなくて、そう言って欄干に腰掛ける。
「もったいない?」
「……なんかなー……言うの難しいんですけど」
ニュクスに挑むときもマガツマンダラへ向かうときもこうだった。
まるで遠足に行く前の小学生。イベントの前のわくわくが大きくて、大きすぎて、それを終わらせたくない。
もちろんこのイベントの終わりがハッピーエンドとは限らないけど。
「なるべくそれに近いものにはしたいですねー。とりあえずソフィと王子の生存は絶対条件で」
「……いつまで陛下をそう呼ぶつもりだ」
呆れたように言う教官に、にっこりと笑って言った。
「本人がちゃんと訂正するまでです」
「パスカルー何してんのー?」
「おー、ゆきみちじゃん」
縁石に座り込んだパスカルが、工具を持ったまま手を振った。いや危ない危ない、ポアソンに当たったらどうするつもり。
「明日に備えて、ちょっとした工作をね。思いついたことがあってさ。ポアソン、ドライバー取って」
パスカルの手元を覗き込んでいたポアソンがドライバーを手渡した。
「あいつ徹夜する気かー…?」
熱中すると周り見えなくなるからな。かと言って俺がパスカル止められるわけもなく。
「まったくあの子は……」
かつかつ、靴音も高く近付いてきたのはフーリエさんだった。
「あ、こんばんはー」
「こんばんは、じゃないわよ。あなたも早く寝なさい」
「や、俺よりあっち」
作業中のパスカルを指すと、フーリエさんは溜め息を吐いた。
「あの子ったら、私が言わないとお風呂にも入らないんだから」
「あー…ははは」
シェリアがきつく言ってるおかげで、辛うじて三日に一回は入ってるらしいけどな。
パスカルはフーリエさんに任せてふと見上げると、一階層高くなったところに見慣れた赤毛と白い服が見えた。
「……あっちは邪魔しちゃ悪いか」
天罰食らいたくねぇしな、ぺろりと舌を出して領主館に戻った。さすがにそろそろ寝ないと明日俺使い物にならない。
途中で泣いてた二名は言及しないでおく。ていうかバリーさんもだったのか……ほとんど接触なかったから気付かなかったぜ。
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