[携帯モード] [URL送信]
シャトル内─ラント領主館
繭は脱出できた。原型を止めない程度に壊れたらしいそこからは、ぽっかりと口を開けた巨大な穴が見えるらしい。
らしい、というのは、俺は席について膝を抱えてそこに顔を埋めているからだ。
アスベルとソフィが言い争っている。そこに口を出す気はない。
懐かしいなと思った。あや先輩が宣告者だと言ったときに似ている。
結局戻ってこなかった死神のタロット。そして月光館のそれは、最終番を欠いて幕を閉じた。

「お前は何もわかってない! 自分一人でなんでも解決できると思っている、人の話を聞かない頑固者だ!」

それお前に言われたかねぇな。
教官の提案により、一度ラントに戻ることになった。






アスベルたちの家に戻ると、フレデリックと民兵代表が出てきた。

「アスベル様、ヒューバート様!」
「バリー、良かった。無事だったんだな」

ああそういやこいつシャトル出すとき囮になったんだっけ。フォドラから直で繭に行ったから忘れてた。

「あー…フレデリックさん?」
「何でございましょう」
「少し疲れたから休みたい。部屋空いてますか」
「直ぐに用意いたします。少々お待ちください」
「つーことでいっぺん抜けるわ。ひととおり終わったら呼んで」
「あ……ちょっと」

ひらり、と手を振って中に引っ込む。後ろからフーリエさんがどうとか言ってるのが聞こえた。あの人実家帰らなくていいのかね。
部屋のベッドに体を投げ出す。……指一本動かす気にならないとか異常。

「あの、馬鹿」

魔王と化したリチャードの姿が浮かぶ。
自業自得、俺のせい。注意力散漫でソフィもエメロードさんもリチャードもどうにもできなかった。
自己嫌悪も自己憐憫も遠いのは少々の現実逃避を含むからだ。
もう間に合わないことを知りたくない弱っちい俺の防衛本能。笑える。
玄関の大扉が開く気配がした。立ち上がって窓の外を見ると、花壇の前にソフィとシェリアがいる。
何話してんだろ。
することもないので眺めていると、そのうちアスベルも出てきた。

「何あれ、仲直りイベ? ……噂のアビスみたいなとんでも展開にならないといーな」

おざなりに言って、またベッドに転がった。無気力、脱力、これでリチャードもソフィも帰ってこなかったら俺のせいかな。思って痛む胸の都合のいい弱さに笑えた。


[→]

1/5ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!