どうやら終わりじゃなさそうです 「……その話は本当なんですか」 アスベルとヒューバートが前に出る。俺もソフィをシェリアに任せて立ち上がった。 「その通りです」 エメロードさんも立ち上がり、相変わらず優雅に笑う。 『……ゆきみち』 「なに」 『どーする』 「いっぺん殴るから捕まえて」 『あいよ』 踏み出しかけたイカロスの足元でばちんと雷が弾ける。 イカロスが舌打ちした。 『輝術使えるなら手伝えし』 「無力に見せかける方が相手を油断させやすくなりますから」 『性格わっる』 油断してたつもりはないけど結局この人の望み通りだ。舌打ちはイカロスとかぶった。 「つーかあんたラムダ嫌いじゃなかった? 何いきなり助けてんの」 聞くとエメロードさんはオペラ歌手のように両手を広げた。 「ラムダが、消滅させるには惜しい存在にまで進化したからです」 その手に導かれるように、黒い渦がエメロードさんの胸に沈み込んだ。 「エメロード……自分がラムダを取り込んじゃったの!?」 『くそ……!』 原素の渦に煽られたイカロスが、たまらず俺の中に戻ってきた。 エメロードさんは原素の渦を利用して浮き上がる。 「ああ……無限の力がみなぎってきます……! ラムダの新たな命を生み出す力は私の知恵によって生かされ、フォドラに希望をもたらすのです。 私の意思のもとに生み出される新たなフォドラの命たちは、どの生命体より優れているはず───あなた方は、この大いなる目標の一過程に携われた事を感謝すべきです。その尊い犠牲が、我がフォドラの歴史に刻まれるのですから……!」 エメロードさんが嗤う。なんか思考回路が病んできてないかこの人。 『長台詞ご苦労様』 「イカロス、そこ違う」 イカロスがふンと鼻を鳴らした。今実体ないけど。 『神様気取りなら余所でやれし。俺ら超関係ねぇし。もーこれ放置して帰っていいのと違う? こいつらの半径五百キロ圏内に入れたくないんだけど』 「範囲広っ。ていうか放置した方が面倒なことになるぞこの人」 「もしかしてエメロードの狙いは、ラムダの生命力とこの世界の大輝石の原素?」 いまいちシリアスになり切らない俺とイカロスを余所に、周りはシリアス一直線だ。 いやリチャードとケンカしたときで糸切れたっぽいんだよね。つか疲れた。帰りたい。あーリチャード回収せねば。 「さすがアンマルチアの末裔。いい洞察力ですね」 しかしこの人も親切だよね、考えてること全部説明してくれるってんだから。この間に攻撃されたらどうする気なんだろう……今んとこ原素垂れ流してて近寄れないっぽいけど。術スキルは軌道ズラされて外されるかなー……何この打つ手ナシみたいな状況。 「この原素は、フォドラの人間である私にこそ活用する権利がある。エフィネアは本来、フォドラに従属すべき植民衛星───フォドラ復活のためにエフィネアが全てを差し出す……美しい物語ではありませんか」 『どこがだ』 イカロスがぼやく。まったくだ。 「そして……その物語の主役はこの私です。同時に、私は主役でありながら物語を紡ぐ神になるのです。 ラムダも、エフィネアも、フォドラも……全てが私の意のままに描かれる!」 ……あれ、主人公が物語の作者ってわりと当たり前な理論じゃないか? 俺が首傾げてるとエメロードさんが高笑いした。 「あなた方は、言わば名もなき端役」 かーっちーん。 今のセリフちょーっと聞き捨てならない。 「そんなことを……させるわけにはいきません」 全員が戦闘体制をとる。俺もやるよちょっとやる気出たよ。 とはいえさっきのリチャード戦で正直全員ギリギリだ。体力保つかな。 「それとも……哀れな道化としてここで死にますか?」 あっもーいーやこの人超ムカつくそのケンカ買った。 唐突に、がくんとエメロードさんの膝が落ちた。 [←][→] |