天然は恐ろしい
夜明けまでもう少しってときに向こう側から崖登って来た三人を見て俺はへたり込んだ。
「…よかったぁぁあ…」
俺は今なら里中の気持ちがわかるぞ。しかもあいつ待つ以外にすることなかったしな。そりゃ泣くわ。俺も泣きそう。
「…ゆきみち、嬉しい顔をしてるのに泣いてる。どうして?」
「人間感情のメーター振り切れると泣くか笑うかしかなくなるんだよ!こーゆーのは経験しないとわかんないからそのうちわかること祈っとけ!」
ソフィが首を傾げた。まぁわかんないよな。こいつなんかアイギスみたいなんだ。心を知らない。
俺はいつかこいつがちゃんと笑ってくれることを願う。誰かが笑うと嬉しいことを知って、そしてできれば幸せであってほしい。
「ほら早く立てよ。置いていくぞ?」
「迎えに来たのにその言い種か!」
つかここあぶねんだよ!落ちるんだよ俺の体格だと!よく考えるとイカロス呼べばよかったわ俺!
遅いけどな、と思いながら立ち上がると、すす、と王子が寄って来た。
「ん?どしたよ王子」
「…あなたは、気付いていたのですか?」
「何に」
「僕が…その…」
王子が言い淀んだ。いいけど進もうぜ?アスベルが焦れてる。
…ああ、
「王子がホンモノだってこと?いや全然」
「ですが、その呼び方は」
「お前ちょっと街の洒落たカフェにでも入ってみろよ、お姉さま方に大人気だぜ?きゃーかわいー王子様みたーいって」
「え?」
「王子なんてにゃ記号だ記号。気にすんな、俺も気にしない」
むしろ不幸だと思うねこいつ、一人きりで寂しいのに誰も側へ寄ってくれない。アスベルに会わないで終わってたらこいつどうなってたやら。
ぐしゃぐしゃに頭を撫でた。うおきもちいい!さらさら!
魔物避けたり蹴散らしたりしながら王子がまた言った。
「…彼に、礼と詫びだと言って指輪を渡したら、怒られてしまいました」
「まず俺そのチョイスに疑問持った」
うん確かに王子の左手には結構豪華な指輪がある。薬指だったらマジ焦るぜ。まぁそれはさすがにないか。
「そんなことのために助けたのではない、と…ああ、あなたにも失礼なことをした」
あー…アレね。手ぇ外されたことね。うん凹んだ凹んだ。
「どうすればいいのか聞いたら、自分で考えろと言われました」
「あーなら自分で考えないと駄目だわ。つかアスベルいいこと言うのな」
まだ十そこそこのガキのくせに。天田よりちっさいだろ。あ、S.E.E.S.時代は同い年くらいか。…ガキっぽ。
「うんまぁとりあえず手ぇ止めるなな。進め進め、アスベルー俺先行って引っ張り上げようかー?」
「俺はいい!リチャード頼む!」
アスベルは無事にソフィに手伝ってもらって上へ着いた。そして王子に手を伸ばす。
「ほら」
そこで戸惑った顔すんなっての。アスベルに他意はないぞ。
なんか王子がアスベルにはまってくの目に見えるようだわー。タラシの才能あるな…カリスマとか番長とかに似なくていいんだけど。
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