稲羽のペルソナ使いです
「我が恐ろしいか、人間」
「て、ンめ……アレ借りモンなんだぞ…!」
しかも月光館の女帝からの。風雅の魔改造受けてるとはいえ、俺がワガママ言って持たせてもらってるお守り代わり……!
───意識飛ばすなよ、ゆきみち
───宿主の意識がないときの具現化は面倒だ
「案ずるな、すぐに楽になる。この世界は我と一つになり、痛みも苦しみも悲しみも、すべてがこの星から消え失せる」
「だいたいキズ作ったら怒られんのに、壊れたらどーしてくれるんだよ確実"処刑"来るじゃんか……!」
俺とリチャードとイカロスと、三者三様ものの見事に噛み合わない会話を続ける。リチャードのは独り言、俺のは意識つなぎ止めるための戯れ言、イカロスは未だ事態の打開を図る。
「……イカロス、駄目だ、俺だけ逃げたって俺じゃこいつのとこまで届かない……」
声が届いた気がしない、届く気がしない、頼むから気付いてくれよ、俺はとっくの昔にお前に手を伸ばしてる。
呼んでるんだ、ずっと。それともやっぱり俺じゃ届かないかな。
頭の中で溜め息がした。
───いつまでも覚悟の決まらねぇ臆病者が
───だったらちゃんと集中しろ
「どうした、命乞いか?」
「ぁ、が……!」
宙吊りにされて自分の体重で首が絞まる。リチャードの腕にかけた左手もばたつかせた足も当然意味はない。
「しぶとい奴らだ…だがまぁ、もうすぐあの男は死ぬな。お前が死ぬのは先か後か……」
教官。傷の治療できてない。ということまで頭が回るわけがなく、俺は滲む視界でどうにかリチャードを捉え続けた。
苦しい。苦しい。どうやら首にかかる手に力が込められたらしい。元々苦しいからあんま変わらないけど。
だらりと下ろした右手。蹴られてずきずきと痛む。それを標にして。
久しぶりだな。うまくできるかな。らくちんだったから俺はずっとあっちだったけど、稲羽市特捜隊の基本はこれなんだし。
「───………」
「なんだ?」
リチャードは嫌に楽しそうに首を絞める手を緩めた。何を期待してんだよ、このドSが。
言っとくけど俺前に、「俺は最強の治療術が使えるんだよ!」って自慢した覚えあるからな。忘れる方が悪い。
「切り札は、…最後までとっとくモンだろ」
俺は右手のタロットカードを床に落として割った。
絵柄は大アルカナの太陽。
「 ペ ル ソ ナ !」
俺の目の前でリチャードの背後に現れたのは赤い逆毛と火の玉型の仮面を持つ、黄金の体のギリシア少年。
「メシアライザー!」
首にかかった手が緩みっぱなしなのをいいことに叫ぶ。
回復系では範囲・威力共に最上位。ちなみに効果は、体力全快と全バステ解除だ。
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