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絶体絶命です
いつの間に発動させたのか、輝術の連続使用で少しばかり顔色の悪いパスカルがマグネティックゲートを使っていた。

「弟くんは殺させないよ!」
「……ほう」

ゆっくりパスカルを振り返ったリチャード(ラムダ)が、嫌な感じに笑った。

「パスカル、術式を解け!」
「パスカル!」

自分の詠唱を中断させて教官とソフィが叫んだ。
リチャードが地面を蹴る。パスカルの方に。阻むもののなくなった引力がそれを助けて、パスカルが反応する前にリチャードはパスカルの目の前に来た。
その速度を乗せて放たれた拳はパスカルの体を捕らえて柱まで吹き飛ばした。背中を思い切り叩きつけられたパスカルはがくりと頭を落とす。杖が手から落ちてからんと音を立てた。

「……もうやめて!」

たまらない、とばかりに前に出たのはシェリアだった。教官の制止の声も届かないらしい。俺はシェリアが時間稼ぎになることを小ずるく願いながら、ヒューバートの治療にかかった。

「アスベルも、ヒューバートも、パスカルも……みんな友達じゃない! 私たちは、大事な仲間だったじゃない! どうしてこんなことをするの、どうしてこんなひどいことができるの……!」

ふらつく足取りで一歩、二歩、リチャードに近づいたシェリアはかくんと膝をついて両手で顔を覆った。
リチャード(ラムダ)は興味がなさそうに手を一閃させた。

「…ぁ、くッ」
「シェリア!」

飛んできたシェリアを受け止める、が、俺ごとふっ飛ばされた。ずいぶん床を滑って止まったけどシェリアの意識はない。

「おおおおお!」

ソフィが光を帯びて突っ込んでいく。教官が手近なパスカルの元に走り、俺はシェリアを起こせないかぺちぺち頬を叩いていた。

「シェリア起きろ、起きろったら……!」

アスベルもヒューバートも貧血で動けないだろう。痛みと出血、どちらかと言えば痛みを与えることを重視したような。

───前衛ほぼソフィ一人……
───キツいな

言ってる場合か、と返そうとしたら嫌な音が聞こえた。

バキィッ

「ソフィ!」

教官の声が飛ぶ。
ソフィの頭を床が割れるほどの力で叩きつけたリチャード(ラムダ)は、床に転がっていたヒューバートの双剣を拾い上げて無造作に投げた。

「が……ッ!」
「教官!」

狙い違わず双剣の一端は教官の腹に吸い込まれた。悲鳴のような声が出て、そしてイカロスが言う。

───どうする
───一人で勝てるような相手じゃねぇぞ

(どうする、って)

逃げられない。逃げたくない。助けるためにここまで来たのに。だいたいみんなまだ生きてて、教官の治療早くしないとこのままじゃほんとに出血多量で、
ぐだぐだ考えてるとリチャードに右手を蹴られた。

「つッ…!」

からからから、取り落として床を滑る召喚器を目で追って、なんだかでかくなった気のする手で首を絞められる。


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あきゅろす。
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