冷戦中
みんなエフィネアに戻る準備のために散っている。シャトル乗ったら真っ直ぐ繭にぶち当たるルートだしな…寄り道の暇はないだろうし。
かつかつ、ヒールの音に振り返る。
「エメロードさん」
「…落ち着いていらっしゃいますね」
エメロードさんはシャトルを見上げていた俺の横に立った。
「初めてじゃないですから」
「何がですか?」
「世界救済ご一行様のメンバーになるの」
へへ、と笑う顔に、エメロードさんの視線が刺さる。
稲葉はともかく、S.E.E.S.はモロだったからな。何考えたらいいのかすらわかんなくて、必死に後追いしてただけだった感じ。
俺はね。みんなちゃんと覚悟決めて行ってたのに、俺だけ半端で。
守られてた。だから俺は生き残れた。
「覚悟決めたことなんてほんとはないんだ。流されるまんま…居心地よくて、なくしたくなくて、なくなるなら最後まで一緒にいたかった」
それで二回も世界救うメンバーに入ってたんだから俺ある意味すごいよね。
「…あなたは、ラムダの寄生にいち早く気付いたと伺いました」
「ああはい」
「そのあなたに伺います。……本気でラムダと話し合うつもりですか?」
くっ、とエメロードさんの視線がきつくなった。
「ラムダはこの星を破壊しました。原素を食らい、魔物を生み出し、この星には新たに生命を生み出す力すら残されていない。そのラムダが、今更話し合いに応じるとでも?」
「応じてもらわなきゃ困るな。王子返してもらわなきゃだし」
七年一人きり。そうしたのはある意味俺らなわけだし。引きずり出してぶん殴って、今度こそ側にいてやんなきゃ。
「ラムダの性質はもうどうしようもない。俺らが飲み食いするように原素を食わなきゃ生きていかれないってンなら、どうにか折り合いつけるしかないだろ」
「たとえその量が、星一つを枯らしてしまう程でも、ですか?」
「ラムダは千年生き長らえた。必ずしもそんなとんでもない量じゃなくていいってことじゃねぇの?」
もし、ある程度の原素を摂取するだけで充分なら。今の行動に疑問はあるけど大輝石の原素を返してもらうだけで事足りる。希望的観測なことは認めるけどな。
「…楽観的に過ぎます。ラムダがあなた方の話に耳を傾けない場合はどうするのですか?」
「たとえそうだとして、」
俺はエメロードさんにきつい目を投げた。
「人間じゃないからとか化け物とか、そんな理由で切っちまうことは俺が許さない」
アイギスがいた、あや先輩がいた、クマがいた、ここにはソフィがいる。何よりイカロスがいる。
「人間じゃないからって殺していい理由にはならないしラムダが星一つ殺した大量殺戮犯だからって俺らが殺していい理由にはならない」
あんたが手を下す理由にもならない。
「……私は責任を取りに行くだけです。私怨でラムダを根絶しようとしているわけではありません」
「その根絶ってのも気になるんだけどな」
「ラムダは単細胞生物に等しいのです。文字どおり細胞の一片に至るまで消滅させなければ、いつかまた災いをもたらすでしょう」
「…あんたはラムダがずいぶん嫌いらしい」
「自分の故郷を滅ぼした相手に好意を持て、という方が無茶ではありませんか?」
「…とりあえず、あんたの世界の悪いことはぜーんぶラムダのせいだと思ってることはわかった」
両手を上げて入り口を見ると、アスベルたちが戻ってきたところだった。
「繰り返しますが、私怨ではありません」
「主張するのは自由、俺が信じるかどうかも自由」
「……私を信用する気はない、ということでしょうか」
「あんたソフィのことどんな目で見てるか自覚ある?……あんまソフィのこと道具扱いしてると、いつか足掬われるぜ」
アスベルたちの方に歩きだす。…イカロス、お前が警戒してる理由はまだわかんないけど、俺はあの人のこと嫌いになれそうだ。
乗組員の思惑なんてまるで無視で、シャトルはエフィネアへ向けて飛び立った。
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