宇宙にチーク
今日は白里は星座の日らしい。
「あの本の登場人物が揃いも揃って一等星とか星座とかの名前なのが悪いと思うんだ」
「はいはい」
うちに呼んだのは別に星の話をするためではないのだけど。まぁいいや、白里の話嫌いじゃないし。
でも楽しそうに図鑑のページをめくっていた白里は、あ、って顔をして本を閉じた。
「えっと。…用事ってなに」
そのまま俯いてぼそぼそ呟くから、正直ちょっと腹立った。それを読み取って白里がますます目を逸らす。
「白里」
「なに」
「怒るよ」
「なんで」
「こっち見ないから」
向かい合わせに座ってた椅子から立った。白里が逃げ出そうとして乱暴に立ち上がったら派手に倒れて椅子の足がふくらはぎを鈍く抉っていった。
しゃがみ込んだ白里の両肩に手を置く。顔歪めたまんまでこっちを見ない。足ぶつけたから当たり前なのにそれにもすごくむかついた。
テレパスって精神攻撃効きやすいよな。
不穏なこと考えて、ぱっと白里が顔を上げた。そのまま視線が合うように両頬つかまえる。まんまるな瞳、宝石色。
「俺はさ、」
ゆらんと蒼が揺れた。誰より他人の考えてることがわかるはずなのに白里はやたらと自分を汚いものとして扱う。無価値にしないだけましだと思いたい。あるいは最初からいないことにされるより。
「白里が笑ってるのが好きだ。白里が楽しそうなのが好きだ。白里の声が好きだし話聞いてるの好きだし自分の好きなことを俺が好きになるよう努力してくれるのもすごく嬉しい」
いっぱいに見開いた蒼色が今にも泣きそうだったからそこでやめておいた。続けるつもりだった台詞は考えないことにする。
白里はぎゅっと目をつぶって、ばか、と言った。両眼から涙が一粒ずつ転がった。綺麗だ。
「も、やだ、ばかじゃないの…」
「あーはいはいいつまでも学習しないで白里泣かしてますよー」
泣かしたいわけではないんだけどね。断じて。
考えることを一つに絞る。すなわち隣の部屋でアイロン使ってる母さんにばれる前に白里を泣き止ませること。
「誉めてんのになんで泣くか」
「誉めてないー…うるさいー…」
涙が零れるたびに顔を擦るせいで目元だけでなく頬まで真っ赤だ。止めさせようとしたら俺のシャツをハンカチ代わりにされた。いつものことだ。
いつの間にか床に落ちてた図鑑のページに、白里の指先から落ちた雫が丸く染みを作った。
宇宙にチーク
(ぎゃー図書室の本ー!)
(弁償かな…このくらいなら大丈夫な気がするけど)
(流のせいだから流が払え)
(えー!)
お題:にやり/nearly
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