呪文じゃないよ。
風雅はいつでもきらきら光るアクセサリーをつけている。
指輪は見たことないけど、イヤリング、チョーカー、ペンダント、リストバンドをつけて来た日はいつだってその下にいくつもブレスレットを隠している。ベルトに引っ掛かっているあれこれも滅多に減らない。
「何が楽しくてそんなじゃらついてんの?」
「楽しくないよ? 整備大変だし」
整備ってなんだ。
「じゃなんで」
「お守り」
「ぜんぶ?」
「全部。俺強いわけじゃないし」
言って風雅は英語の教科書を取り出した。ぺらぺらめくってく手を止めさせて、プリントを押し付ける。
「はい世界史の図解。あと英語はリーディング3のパート4」
「ん、ありがとね」
「おら単語と発音記号。ありがたく写すがいい。訳はいらねぇよな?」
「大丈夫」
風雅が学校に来たのは久々だ。ノートを見せながら、俺はひとつ溜め息を吐く。風雅が前触れ付きでいなくなる確率は半々、どっちに転んでも俺はぽっかり空いた机を気にしながら日々を過ごすことになる。まともにノートとったりして。いややっぱり寝るんだけど。
追い付くとか捕まえるとかは、なんかもう諦めかかっている。でも俺は、風雅を諦めるつもりはさらさらない。いつまでだって、ぎりぎりの縁で待っていたい。
「ゆきみち、チャイム鳴るよ」
「英語までにノート返せよー」
「わかってる」
自分の席に戻りながら、俺はポケットの携帯を握りしめた。
呪文じゃないよ。
でもきみの力になれるよ。
お題:にやり/nearly
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