ないて、喘ぎ声でいい
気が向くと、俺は風雅に貼りついている。いつもじゃない。俺だってくそ忙しい高校生なのだ。ゲームシステムにPVの段階で惚れた新作の発売を心待ちにしたり、音楽の授業で聞いたクラシックについてちょっと考え込んだり。っていうとかっこいいけど、α波出過ぎてぼーっとしてるだけかもしんない。
一番手間がかかって面倒なのはもちろん、日々の予習復習及び宿題である。
「おーわ……ったあああ!」
数学の教科書をばたんと閉めて叫ぶ。あーもうやだ! 間違ってても知らね! 答え合わせ明日だし!
「こっちもうちょっとかかるよ」
現社のプリントを叩いて風雅が苦笑する。無駄に膨大で意味のわからない穴埋めは確かに面倒だ。
「なーなー今日大丈夫? 時間ある?」
「んー?」
風雅は教科書をめくりながら生返事。よし押し切れる。
「うち来いよ。ゲームのムービーまじ神だから! ぜって感動すっから!」
ムービー前のセーブデータを極力残すくらいには偉大だ。今年のゲームじゃ大当たりだろう。ミニゲームめんどいけど。
興奮ぎみに語ると、風雅がちょっと首を傾げた。
「そんなに?」
かかった!
「まじすっげぇから! 塔のシーンとかまじ涙出るから! データあるから見よう見よう、ていうか見るべき!」
「はいはいわかったわかった、あと十分待って」
頷いた風雅にガッツポーズ。他人を遠ざけたがる風雅の泣き顔を、見てみたいと思ったのはこれが始めてじゃない。ムービーを三回見たところで、「これいけるんじゃね?」と思ったから誘ってみた。
滅多なことじゃ泣きたがらない風雅も、こういう泣き方ならためらわないんじゃないかと思った。
ないて、喘ぎ声でいい
(したらちょっとは楽になるんじゃないか、なんて)
お題:にやり/nearly
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