彼の愛した言葉で部屋をいっぱいにしたいの 風雅は本が好きだ。 「楽しくてそれなりに知識になって厚くなくてでも中身のある本ってない?」 「絵本」 ヘッドロック決めようとしたら本気で逃げられた。 「逃げんな!」 「逃げるから! 高校生男子の腕力と加減のなさを知らないとは言わせない!」 風雅がマジ逃げしだしたので昼の弁当をひとつ掠め取るだけで許してやった。里芋の煮っころがし好き。 で。 放課後に図書館に行って絵本を借りた。ほらあの狼とひつじだかやぎだっけかが友達になっちゃうやつ(やぎだった)。 まずった。 泣いた。 「泣かされたー…」 「ご希望は叶いましたかお客様。あとその言い方どうなの」 ちょっと腫れたっぽい目で風雅を見ると、風雅は辞書くらいある本を三冊持っていた。いや待て何その厚さ。 「ハリポタ?」 「あれはもうちょっと薄い。これねー小学生のときから好きでねー、たまにすごい読みたくなるの」 重そうに本を抱え直す風雅はすごく嬉しそうだった。 「…ね、それおもしろい?」 「ファンタジーいけるなら。あと下敷き旧約聖書だからそういうの大丈夫かな」 「おもしろければよし。無宗教便利」 じゃあ今度貸すね、と笑った顔は久しぶりの本気の笑顔だった。 彼の愛した言葉で部屋をいっぱいにしたいの (そしたらもう少しお前のことがわかるのかな、なんて) お題:にやり/nearly |