だって寒いのは嫌いでしょう?
風雅が三年の誰だっけかに盛大なバッシングを食らっているらしい。
「…上靴にコーラって新しいよね」
「いや新しいとかの問題じゃないから!」
俺が気付いただけで三回(こいつ隠し事うまいから絶対もっとやられてる)靴に画鋲仕込まれてて、俺が気付いて1週間の今日、靴箱がコーラまみれになっていた。
「事務室にスリッパ借りてくるー」
「これ放置!?」
「や、後で片すし。つか今日さぼるわ、昼休み呼び出し食らってるからいくつか仕掛けしとく」
「何する気」
「えー俺凹られるの嫌だしー。煙玉とか爆竹とか、なんか逃げられそうなかんじのもの空き教室とかに仕掛けてくる」
先行ってていいよ、と風雅はふらふら事務室に歩いていった。
あいつここんとこほとんど寝ないで外でなんかやってんのに。
俺はそれでも教室へ行って、HR始まるまでちょっと自己嫌悪に浸ってた。
そんな暇あるならなんかしろとか、ちゃんとわかってるし。でもなんか俺が動けば動くほど風雅の仕事増やしそうで。
風雅は本当に昼休みが始まっても来なかったから、昼用のパン(二人分)をぶら下げて空き教室が固まってる棟へ行った。
風雅は校舎裏のさびついた水飲み場で顔を洗っていた。
「…そこの水大丈夫なの」
「こないだ水道関係全部点検したらしいからね。ほら蛇口とパイプだけ新しい」
日陰だから冷たくて気持ちいいよ。
二階の窓から見下ろす俺に風雅がにこりと笑った。その笑顔かどこも腫れていないことにちょっと安心する。
一階の地学教室へ降りて窓を開けた。外靴持ってくるのめんどい。
「で、なんでびしょ濡れ」
「んー? 頭っから水被っちゃった。ドア開けるなりとはさすがに思わなかったからさー。相手それだけで帰っちゃうし、丁度いいから眠気覚まし兼禊ぎ」
裸足で頭から制服のスラックスまで水浸しな風雅が笑う。顔が白い、昼休みは残り十分、こいついつからここにいたんだ。
「風雅」
「ん?」
「中入れ」
「なんで」
「いいから!」
首傾げながら裏口に来た風雅にスリッパを履かせて校舎を歩く。逃げないように右腕捕獲済み。
「ちょ、どこ行くのゆきみち」
「シャワー室」
「なんで」
「馬鹿言え風邪ひくだろうよ! 今日どーせ来る気ないならあったまって家帰って寝とけ!」
血の気が失せて冷たい風雅に俺が泣きそうになった。好き好んで冷たくなってんじゃねぇよ!
だって寒いのは嫌いでしょう?
(ああ、)
(きみはあたたかい、な)
お題:にやり/nearly
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