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神様のいないお庭で
俺は石段横の木陰でぐったりしていた。

「…なにこの急勾配…」
「だから待ってろって言ったのに」

風雅が苦笑して濡らしたタオルを俺の額に当てた。

「だってさー」

一人きりで歩く風雅。
その背中がさみしそうだったなんて、俺の自惚れだろうか(なにせ相手は考えてることの半分がぶっ飛んでる風雅だ)。

(つか、風雅がさみしいかどうかなんて俺にわかるわけないし)

見捨てられて忘れられた神社に行く風雅がそのまますごく遠くへ行きそうで怖かった。
暑さにやられかかった頭で考えてると、風雅がすっと立ち上がった。

「じゃ、俺行くから。気分良くなったら降りなね」

くるりと背を向けられてその腕を思い切り引いた。

「置いてくな馬鹿!」

がくんとバランスを崩した風雅はその場にしりもちついて、ぱちぱち瞬きながら俺の顔と掴んだ腕を何度も往復した。

「…ゆきみち?」
「やだ、やだよ置いてくな」

自分でも不思議なくらい必死になって風雅の視線を捕まえた。
こいつは絶対踏み込ませない一線を引いていて、普段はさりげなく引くそれを俺にははっきり見せつけることがよくある。
ここから先へは来ちゃいけないよ。
その先は、もうひとでいられないひとの領分だからね。
そう言って風雅は笑う。本気で笑う。威圧のために笑う。
俺はこいつを一人にしたくないくせに線を踏み越えていく勇気がない。ひとでなくなるのが怖い。ひとのままで先へ進む覚悟とか度胸みたいなものもない。
それでもできるだけこいつの側にいたい俺は、こうやって線の位置を測る。
ぎりぎりまでこいつの隣にいられる位置。
線の向こうから戻ってきた風雅を一番に迎えられる位置。
風雅はしばらく俺と目を合わせてから、ふっと笑った。

「…お社の中までついて来ちゃ駄目だよ?」
「! …わかってる!」

風雅に腕を引かれるまま立ち上がって、また石段を登りはじめた。






神社には、人のいない建物特有の沈黙が漂っていた。

「…気味悪…なんか精神的にサムイ」
「ゆきみちはそこの社務所入ってて。出て来ちゃ駄目だからね」

指された先に、よくお守り売ってる小屋みたいのがあった。今回のラインはここまでらしい。
ガラスも何もない窓から中を覗く。埃と落ち葉とタバコの吸殻なんかか落ちていた。

「あーあ。去年も誰か来て清めとかしたはずなんだけど、これじゃ意味ないなぁ」
「つーか誰もいないっつって神社で酒飲むなよ…」

きしみながら開いた戸の内側に入ってガラスのない窓から風雅を見る。

「気ぃつけろよ。待ってるからちゃんと迎えにこい」
「ん、わかった」

風雅は笑って行ってしまった。
携帯のライオンのストラップをいじりながら溜め息を吐く。

「…不気味」

早く帰ってこいって言えばよかった、独り言に返事はなかった。

神様のいないお庭で


お題:にやり/nearly



あきゅろす。
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