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かもめ、海知らず
夏といったら海だろう、というわけで、

「うおおおおおなんかすげえええええ!」
「車窓から落下は勘弁してねゆきみち」

夏期講習(風雅は出席数足りなくて補修だった)なんてたるいものがやっと終わった八月上旬、知り合いの家に行くらしい風雅にくっついて、俺は電車に揺られていた。

「ちょ、日本だよねここ! 海超キレーなんだけど!」

本日快晴気温は高し、眩しい太陽を反射して青い海がきらきらしていた。

「はいはい…ちょっと声大きいよゆきみち、ていうか身を乗り出してはいけませんとかその辺の常識はどこに置いてきたの」
「部屋!」
「そのリアルさがなんか嫌」

風雅は溜め息を吐いて俺を無理やり席に座らせた。

「言っとくけど泳げないよ?」
「えええええなんで」
「先週ここの沖で船ひとつ転覆してるから。迷ってるひと還して水神さまに一通り挨拶して、もう誰も覚えてないお社があっちの山にあるから俺そっち行っちゃうし」
「待ってお前何しに来たの」
「え、仕事」

ゆるく首を傾げる風雅にがっくりと肩を落とす。こいつはほんとに!

「お前なぁああああ! 健全な男子高校生としては青い海白い砂浜一夏の思い出にロマン感じるべきだと思うんだけど!?」
「今遠回しに言ったけど要するにナンパだよね。俺好きなひといるってば。あとそんなんにひっかかる子ろくなのいないからやめた方いいよ」
「夢くらい見させろ!」
「わざわざ悪夢見たいわけじゃないだろ」

風雅は冷静にペットボトルの水を飲んだ。俺も一人で騒いでるのが虚しくなって大人しく座る。
なぜだか誰もいない車両は俺が黙るとやたら静かだった。

「…ごめん」

風雅がボトルの水滴をつつきながら言った。

「なんかさ、ほんとつまんないよね俺」
「…そんなことないし。てかある程度のノリの悪さは含んでるし俺も」
「ほら許す。そういうの計算に入れて言ったよ今」

だまされちゃ駄目だよ?
そう言って笑う風雅はまた自分以外の全部を外に弾いたらしい。
俺は唇尖らせて窓枠に肘をついた。

かもめ、海知らず


(そりゃ目ぇ閉じて耳塞いでりゃなんにもわかんないだろうよ!)

お題:にやり/nearly



あきゅろす。
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