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WestendCompany.
資格のない断罪。

 そのひとは笑って、ようこそと言った。







 旭野小夜音十二歳、一人っ子で現在親から独立中。収入源は九割九分九厘バイト。
 特徴。背が低い、口が悪い、短気、無駄に喧嘩が強い、世慣れしている、家事能力に優れる、歌が上手い、猫型人間(言動が猫っぽい人間のこと)、






「…っにゃぁああぁーーっ!」

 怖がり。






「ほら小夜、気のせい気のせいもー何もいないってばー」

「嘘だ嘘だ今やたら青白いひとがこっち見てにぃって嗤って手招きしたぁーっ!」

 あたしは叫びながら流を叩いた。手加減はしてあるけど痛いかもしんない。

「落ち着けほんとにもーいないから」

「…うー…」

 あたしは涙目で唸った。
 …えと、頭っから訳分かんないことやってすみません、旭野小夜音です。さよ、って呼ばれてます。
 よしよし、とあたしの頭を撫でてるのは流。ちなみに本名は灘(なだ)という。この偽名で春休みの二週間ごまかしたという強者。
 あたし達がいるのはとあるお屋敷の前庭で、かなりの密度で木が生い茂っていたりする。
 しかも夜。(p.m.10:30)

「何でこんな雰囲気満点な…!」

 ちょっとかみさま怨みたくなりながらあたしは嘆いた。






 みーみー言いながら流に縋って歩くこと十数分。いつも思うけど無駄に広いよなこーゆーとこ。
 庭の一画、光る様にしろいテーブルの横に、純白の装いをしたひとが立っていた。






「いらっしゃい、ようこそ」

「…中で待っていて下さってもよかったのに」

 あたしがそう言うと、そのひとは笑って首を振った。

「私が出迎えたかったの。
本当はケーキを焼いたのだけど、到着の時間がズレたでしょう? だから…紅茶だけ」

 ことり、とカップを置かれて、あたしは椅子に座ってそれをひとくち飲んだ。

「すみませんね遅くなって、」

 流があたしの隣りの椅子について、残ったひとつに座ったそのひとに苦笑された。

「構わないわ、仕方がないもの。…ああでも、丁度カトレアが満開になったのは見て欲しかったのだけど」

「うぁ。それは惜しい」

 思わず呻いたあたしに、そのひとは薄い笑みを向けた。






 あたしがカップを空けた頃、そういえば、と流が言った。

「こいつ今度ソロでコンクール出るんですよ」

「本当に? だったら歌って貰えないかしら」

 小首を傾げて言われて、あたしは諦めた様に溜め息を吐いた。

「…下手っぴぃくても笑わないで下さいねー…」

「それはない」

 ぱたぱたと無責任に手を振る流を半眼で睨み付けて、あたしはすぅ、と息を吸った。
 ――貴女が望むのなら。
 届けようとも思わない言葉を、頭の中だけに響かせて。

  さぁこれからどこへ行こう?
  君のいない世界は、どうやらその色を
  いっそう鮮やかにしたらしい
  新しい日々のはじまり
  それはもう、否応無しに

 静かな外。微風すら吹かない中で、あたしの声だけが音源。
 もう慣れた。気にしない。雑音はない方が歌いやすい。
 視界の隅で、目を閉じたそのひとと、テーブルに指先でくるりと円を描いた流を見た。

  君がいても気付かなかった
  世界の鮮やかさに気付く
  ひどい奴だと思うだろう?
  それでも君を、
  全身全霊で愛したいと願ったんだ
  傲慢な「僕」に
  それができるかどうかは別として

 誰かが、あ、と呟いたのが聞こえた。誰のものかは分かり切っているけど。
 薄く閉じていた目を開けると、不思議そうに自分の両手を見るそのひとが、映った。
 ぼろぼろと、かたちだけは丸く、崩れた欠片は空に昇っていく。
 光りだした円を見ながら流が言った。

「少なくともあんたのほんとの甥と姪はさ、あんたを本気で心配してたよ」

 小夜、仕上げ。
 目線も寄越さずに言う流に、あたしは黙って目を閉じた。

  さぁセカイを始めよう?
  何も難しくはないはずだ
  君がいないだけ。
  それだけ。

  日常を始める自分と
  淋しいと思うココロ
  どちらがほんとうかと言われれば、
  前者と答えるだろう
  ――それは僕のため。

 目を開けると、そのひとはどこにもいなかった。

「――あのひと自分が死んだってこと分かってたかな」

 あたしはぽつりと呟いた。
 流は返事をくれなかった。





…何も知らないそのひとに、傲慢な鎮魂歌を。




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あきゅろす。
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