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WestendCompany.
流と小夜ちゃんその2
闇の中。
黒い石造りの城の中を走る走る。城、というよりも、そこは神殿のような雰囲気だった。ただしそれは肉の欲を断って祈りを捧げる類のそれではなく、絨毯の代わりに血と臓物を敷いて希うような種類のものだろうが。
本来強固な結界に守られたそこは、今は無防備に俺たちの闊歩を許している。結界はすでに破られた。そうしたのは俺ではない。俺の隣を走る、小夜という少女でもない。俺たちより先に、この明かりの足りない闇の神殿に足を踏み入れた者がいるのだ。
昔からの習慣に乗っ取って、その者を、勇者という。
「ありえないマジありえない、結界の鍵守が勇者に惚れて情報横流しして戦うときも手ぇ抜いたとかマジありえない!」
俺たちは、とある神殿の長からの依頼を受けて、勇者含む数名の魔王討伐隊に加わるためにここまで来た。この闇の神殿に着くまでに合流できる予定だったのに、前述の理由により先行していた勇者一行の進度が格段に上がったのだ。日数に換算して、こちらの予想より一ヶ月早い。
一ヶ月。一ヶ月だ! その一ヶ月の半分でもどこかの沼地か洞窟で過ごしていてくれれば、俺たちはこんなに焦らずに済むのに!
「魔王に挑むにゃ早過ぎんだよ! 仮にも魔のものの王だぜ、慢心したままで勝てると思ってんのか!?」
あの鍵守を相手にして、無事に勝ってもらっては困るのだ。魔王の配下で指折りの実力者にその高々と掲げた鼻を折ってもらわなければ、若い一行は勢いだけで魔王の元に着いてしまう。
「あのまま勝たせたら殺されることなんて簡単にわかるだろ、鍵守のやつ! ああもうばっかやろー!」
「わからなくなるのが恋の病というやつらしいですから」
この世で最も厄介なものは、泣く子供と恋狂いだそうですよ。
短く刈った黒髪を空気抵抗に揺らしながら、小夜はあくまで冷静に言った。
「恋をした人間には二種類いる、焦がれた相手を殺せる者と殺せない者。鍵守は後者だったかもしれない、それだけのことです。もしくは魔王が勝つ未来を予測してあえて殺されたか。自分が王に仕える者だと理解しているならそういう選択肢もアリだと思います」
「うーわヤなこと考えるね小夜」
「深読みと曲解は得意です」
「曲解だって自覚はあるんだー……」
道を塞ぐ半裸の巨人を二人して跳び越える。流石にでかすぎるので肘と肩を中継地点にして跳んだ。ついてこられなかった巨人が俺たちを見失って右往左往している。
「ていうか広いし! 遠いし! どこだよ玉座!」
「これでも先行の方々がさんざん仕掛け解いたり門番倒したりしてるから楽なんですよ?」
「知ってるけど広すぎだろ! もっとこぢんまりしたとこに住めよ!」
「どうせ千年単位で眠ってたんだろうから今更寝室とかいらないと思いません?」
「思う! ていうか結局小夜も苛ついてんのね」
「まあこれだけ走らされれば」
 小夜が突然立ち止まって横手の壁に体当たりした。何事かと思ったら、壁が四角くぐるんと回る。
「隠し部屋?」
「いえ、正当な道順です。あのひとたちわざわざ外敵用の罠だらけのとこ通ったみたいですね」
「いや知らなきゃわかんないってここ、小夜なんで知ってんの」
「設計した魔族がぎりぎり存命だったらしいです、あのひとたちと合流する理由ってこういうところにもあったりするんですけど」
「予定狂わされっぱなしってわけか」
 がりがり頭掻きながら部屋に入ると、小夜が部屋の真ん中にあるテーブルに向かって何かしていた。色の違う宝石がいくつか、多分先に進むための仕掛けだろう。小夜は答えを知っているようだったので任せることにした。
 ただ待つ、という時間を手に入れると、途端に苛立ちと焦燥が募る。ああもう、手こずるだろうからゆっくりしててもいいと思ってたのに。のんびりしてた過去の自分を蹴り飛ばしたい気分だ。もちろんそんなことしたって無駄なんだけど。
 落ち着け、大丈夫だ。向こうが遠回りしてんならまだ追いつける、ていうか追いつく。
 がこん、と右手の壁から音がした。何もなかった壁に、四角い闇がぽっかりと口を開けていた。
「行きましょう」
 躊躇なく戸口を潜る小夜の背中を見送って、がりがりと頭を掻いて、溜め息を吐きながら後を追った。小夜に今更女の子らしさっていうか慎ましさみたいなものを求めるのは間違いだと思うけど、明かりのない通路にこうもあっさり入っていかれると俺の立場があんまりないんだ。

 戸口の先はすぐ階段だった。しばらく黙々と、歩く。
 歩く。
 歩く。
「ねえ小夜」
「黙って下さい」
「ハイ」
 あの、真っ暗な中で黙々と足動かすだけってのはなかなか辛いものがあるんですが。
 会話どころか声そのものを拒絶したようなきっぱりした声に半分泣きそうになってると、先を行っていた小夜が突然止まってぶつかりそうになった。
「ちょ、危なっ、小夜?」
「ちょっと待って下さい」
 ええと、と呟きながら壁をぺたぺた触っていた小夜が、こくりと一つ頷いて壁を思い切り殴った。
 がこん、とまた音がする。部屋の入り口といいここといい、なんで力任せの仕掛けばっかなんだ?
「今度は何?」
「ここ、昇降機になってるらしいです。素直に降りていくと行き止まりで……ここ、ほんとはランプが要るんですけど、それは先行のひとたちが持って行っちゃったらしんですよ。かろうじて百三十五段目の右手の壁にあるってことは聞けたので、数えながら降りてたんですけど」
「……お願い小夜、最初にそれ言って。俺さすがにそんな大事なことやってんのに邪魔するほど空気読めてない人じゃないから」
 それはすみませんでした、と小夜が言ったけど、明らかにどうでもよさそうな口調だったから睨んでおいた。効かなかったけど。
 すすす、と開いた壁の隙間に入って、小夜が中のレバーを力任せに下ろした。がくん、と一つ振動があって、腹の底が落ち着かないような浮遊感を覚える。
「直通なので。着いたら真っ直ぐ走って下さい。玉座の位置変えてなければ、そこに魔王がいるはずです」
「これで無駄足だったら俺泣くって」
 あれ、でもそれって勇者一行も無駄足だったってことだよな? だったらその方がいいなあ、とか思ったけど、そんな都合のいいことはそうそう起こらないようだった。
 胃がふわふわする感覚とは別に、なにかが背中や腹を撫でていく感覚がある。不定期に来るそれは体中鳥肌が立つようなつめたさを持っていた。
 魔王の魔力だろう、これは。人間に害意のあるものだ。
「おられるようだな」
「でなきゃ困りますよ。これからまた改めて探すのはとんでもなく手間です」
 今回の撤退で場所変えないといいんですけど、呟く小夜は、まだレバーの上に置いていた手に、少し力を込めていた。

 寒気はやがて息苦しさを覚えるまでになった。というか、きっぱりと空気が悪い。全身が「行きたくない」と訴えている。この下は、生き物の行くところではない。
 もうすぐです、と小夜が言った。言われるまでもなかった。
「あと三秒。に、いち、」
 がくん、と乗客に優しくない止まり方をして、ずるずると石の戸が横にずれる。滑る、とは言い難い速度で開いた隙間に、小夜より先に体をねじ込んだのは、ちょっとした意地だった。だって小夜、黙ってりゃかわいい女の子だし。俺にも一応プライドとかあるし。小夜の方が絶対強いのはわかってんだけど、それでもやっぱり、いつも小夜に守られてるってのはどうなのよ、と思うわけで。
 小夜足速いから、直線の廊下駆けだして三秒で追い抜かれたけど。くそう。
「見えますか!」
「見えた! あー空気気持ち悪い!」
 呼吸すると空気が喉に張り付いて苦しかった。指先とか背中とかすっかり冷えてて心臓が変な風にどくどくしている。全部ねじ伏せつつ走っていくと、それこそ何秒もしないうちに正面の扉の内側が見えた。
 開け放たれた観音開きの扉は、例に漏れず無駄に豪勢ででかかった。どうせその姿で扉通ることなんかないくせに、本性を現した魔王陛下の体に合わせてあるようだ。その巨躯を晒して魔王が見ているのは、目の前にいる人間。
 爬虫類か肉食の獣かどっちかにしろよ、と突っ込んでいいなら突っ込みたい合成された体は見上げるほどに大きい。比べると泣きたいほど小さな体で、勇者一行がそれぞれ身構えていた。怪我も装備の傷も見られない。どうやら始まる前らしい。
「あーくそ間に合ったァ!」
 叫んで、思いっきり振り返ったのは一人だった。ゆるゆるした感じの緑の法衣の少女が、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「……あの、どちらさまでしょう?」
「助っ人ですよデルアラの姫巫女! とりあえず全員、退け!」
 気分の悪さそのままに怒鳴ったら、背を向けている残りのメンバーからも反感のオーラが出た。あーまずい初手間違ったわ。
 仕方ないこのままで行こう、ていうか俺悪くないと思うよ、実は昨日寝てないし結構限界だよ。ああもうここマジ最悪、魔王の玉座ってどうして例外なく毒素的な何かが漂ってんのかな!
「理由は後で説明する、ここまで来て最終目標に背中向けるのが激しく納得いかないのも理解してるからとりあえず俺の意見を容れろ! 承諾以外の答えは要らないからとりあえず一緒に来い!」
「ふざけろ! そんな訳のわからない話につき合っていられるか!」
 長剣を構えた一人が言う。あっどいつが勇者なんだっけ。忘れた。後で小夜に聞こう。
 その小夜はっていうと、いつの間にか宙に浮いていた。一応言っておくが小夜に空を飛ぶスキルは備わってない。
 小夜を紫に光る円でもって拘束した魔王は、ぎらつく赤い瞳でもって小夜を見た。牙がむき出しの顔を歪めたのは、どうやら笑ったらしい。

ほう、天使族の姫が、このような場所になんのご用かな

「自分でこのようなとか言う場所に城建てないで下さい、来るのめんどくさいです」
 さらっと言った小夜が、つい、と左手を払うと紫の円はあっさりと姿を消した。当然支えを失った小夜は床に落ちるわけだが、何度かの宙返りを経て苦もなく床に両足を付ける。
 天使族は大昔の背中に翼のある種族の名だ。翼を除けばほぼ人間。ただし主食は生肉。主に人間。だいぶ昔に生存競争に負けて滅んだ。小夜はその生まれ変わりで、前世のこともばっちり覚えてるらしい。しかも重要人物だったとか違うとか。
 さすがに千年単位で封印されたり復活したりしてると、そんなことも覚えているらしい。小夜の馬鹿みたいな容量の魔力も前世がらみらしいし、それで見分けたんだろう。昔のこと言われるのが大層嫌いらしい小夜が、不機嫌そのものの顔で魔王を見た。
「あと姫言うの止めて下さい、いったい何年前の話ですか。唄いの姫の役割なんてとうの昔に放棄しましたよ。虫呼ばわりされた方がいくらかマシです」

姫の力は羽虫と同列に扱うにはいささか強すぎるでな、こちらも礼を尽くさねばならんのだよ

「間違いなく嫌味じゃないですか誰も好き好んでそんな面倒な役割担ってたわけじゃないんですよ」
「ねえ誰か虫呼ばわりについて言及して」
 どんだけ姫呼ばわり嫌いなんですか。溜め息吐きながら片腕を上げて、何もない空間を弾いた。
 きんっ、と空気が鳴る。気のせいって言われても納得するくらい微かに。
「え、」
「何……っだよ、これ!」
 気のせいじゃない証拠に、勇者一行の周りに虹色の球が生まれていた。一行をすっぽりと包んだシャボン膜みたいなそれは、中からけっこうな力で叩かれてもびくともしない。
「だからって剣を持ち出すな呪文の詠唱始めるな! 維持する方の負担考えろ!」
「だったら出せよ!」
「人さらい!」
「ゆうかいはん!」
「泥棒!」
「やかましいわ! あと一人意味分かんないで使ってる奴いるだろ!」
 人聞き悪いっつのまったく、ぶつぶつ呟きながら球の上に飛び乗った。中に人入れたまま移動もできます。このまんま外出ちゃおう。
「小夜、外出るぜ」
「分かりました」
 こいついっぺん殴りてぇ、と思ってるのが丸分かりな顔に引きつった笑みを返して、小夜だけまた別の球で覆って玉座の間を後にした。
 魔王にしちゃいやにあっさり帰してくれるな、と、思わなくもなかった。


「で?」
 キリエが剣の柄に手を掛けたまま言った。ぎらりと光る樫色の目が俺を睨む。キリエ。救世主。なるほど勇者にふさわしい名前だ。
「聞かせてもらおうか。俺たちに与えられた使命を放棄させてまで、果たしたかった目的はなんだ?」
 使命を与えられるレベルじゃ未熟者宣言してるようなもんだけどな。自分のやることくらい自分で決めようぜ、頭使わないとどんどん衰えるよー、とは言えなかった。だって怖い。キリエも怖いけど、何より俺の背後の小夜が何も言わないのが怖い。
 城を出て森まで来て、それから説明しようと向かい合ったのに小夜が少しも動かない。勘弁しろよ俺武闘派じゃないって、とか思っていられたのは最初だけだった。
 背を向けているのが怖い。さっき魔王の居室で感じた、気分が悪くなる空気と同じものが小夜を取り巻いている。激しく逃げたい。でもこれ以上キリエたちを抑えておけない。疲れて寝てなくて腹立ってて俺だって冷静じゃない。
 まじ誰か助けて、と泣きそうになったとき、小夜がふらっと動いた。
「さ、よ?」
 返事はしてくれなかった。振り返りもしなかった。俺の前、キリエに向かい合った小夜の手に、きらりと光るものがあって手を伸ばす。
「小夜やめろ!」
 ざん、と重い音がした。小夜より頭ふたつぶん高いキリエの顔が、呆けたように緩む。
 その顔がずるりと横にズレた。
「―――きゃああああああ!」
 同行の魔法使いの少女が悲鳴を上げた。その顔にキリエの血が飛ぶ。
 なんて、こと。
 小夜がキリエの胴を真っ二つに裂いた。
「どうなってんだ!」
 もう一人いた戦士が剣を引き抜く。小夜の手にあるのは手のひら大の短剣一本。そんなもので人の体が二つに割れるわけがない。どちらかと言えば、かまいたちか何かで裂いたのだろう。
 俺がそんなことを考えている間に、戦士が喉を裂かれて倒れる。いつの間に。どさっ、と重い音がして、見ると神官風の女の子が倒れていた。頭部と右腕が、何があったのか見当たらない。
 小夜が、最後に残った魔法使いに目をやる。いつもは真っ黒な目が、底光りして白い。
「ひ、」
 腰を抜かした魔法使いが必死に距離を作ろうと後ずさる。
「やめ……っ」
 背中から手を伸ばそうとしたら火花が散って弾かれた。小夜の首筋に妙な光が浮いている。紫の、首輪のような―――蝶か?
 ぼこ、と妙な重い音がした。気付けば魔法使いの姿がない。地面に僅かな窪みと、杖を握ったままの右腕が残されただけだった。
 ずん、と続けて周りの木が丸く欠ける。空間転移、もしくは分子レベルの消失?
「小夜!小夜ってば!」

無駄だ

 見上げると、魔王が獣の顔を歪めて空に浮いていた。いつの間に。つーかどうやって出てきたんだか。

姫はすでに我の手に落ちた、最早何者も止めることはできぬ

「野ッ郎……!」
 ぎり、と歯噛みして魔王を見上げる。その視界に、小夜が入ってきた。自分で飛んでるのか、魔王が招いたのか。両腕をだらりと垂らして、ただぼうっと魔王を眺めている。魔王がますます顔を歪めて、さぁおいで、と言いたげに両腕を広げた。
 その胸の中央にぼかりと穴が開く。
 獣の顔が惚けた間にも、その腕が、足が、腹が、どんどん欠けて質量を減らしていく。獣の顔が苦痛に歪み直したときには、見上げるほどの体躯が半分ほどになっていた。

おのれ……姫の力が制御下に入らぬ!未だ姫は我を上回るというのか……!

 立っていられなくなって膝を突く。目眩かと思ったそれは、森を揺らしてがさがさと葉を騒がせた。地震だ。魔王か、と思ったけど、魔王はひたすらに小夜に恨み言を投げつけるだけだった。その体は、最早胸と顔の半ばまでしか残っていない。

呪われろ!呪われろ!我が頸城は我が命尽きるとも続くぞ!その力を存分に奮うがいい、天使族の姫よ!そして自らその力に焼かれるといい!

 科白の半ばで顔は消えた。それでも空間に魔王の声が木霊した。そして何故か、小夜の答えもちゃんと聞こえた。

「世界に価値がないなら、
 崩壊を望むなら、
 破壊を望むなら、
 この 世界は、

 なくなった方がいい」

 こうして世界が一つ滅んだが、数ある平行世界のうちの一つなど、気にするものはいなかった。

 俺は悲鳴を上げた。上げ続けた。喉が枯れても息だけはひゅうひゅうと通り抜け続けた。
 隣には小夜が倒れていた。意識はない。あのすさまじい力の片鱗もない。ただ少し土埃に汚れているだけだった。
「……小夜ちゃんに操心かけるなんて、馬鹿なことしたもんね」
 溜め息を吐いたのは、一人の少女だった。俺より二つ三つ年上くらい。名前を捺奈、俺の知る限り最高峰の魔法使いで、崩壊する世界から俺と小夜を拾い上げた人だ。
「小夜ちゃんは職務に対してすごく忠実。だからこそ暴走するし訂正が利かない。魔王は多分、小夜ちゃんの力が強いのをいいことに、小夜ちゃんを武器にしたかったんでしょう。世界を直接壊せるような。だから直接世界の崩壊を頭に張りつけて、」
 自滅した。
 捺奈さんが小夜の髪を撫でる。小夜はまったく目覚める気配がない。
「力を奮うものはその剣が自分に向けられる可能性を考えなければならない。傷つけられない存在なんて存在しない。反面教師でもいない限り、それを知る前に死んじゃうんだけどね」
 そういう意味ではあたしは幸運。言って捺奈さんは俺を見た。幸運。これが?世界を一つ見捨てて逃げた俺が?
「……小夜は、戻らないんですか」
「戻る?何が?これは小夜ちゃんの中にはじめからあった要素だもの。あたしにはどうにもならない。ちょっと理性飛びやすくなった程度の話よ。ずいぶん粘着質なものもらったみたいだけど……まぁあと五回くらい植物にでも生まれ変われば、力共々薄れるでしょうよ」
 それは死なないと解けないってことですか。とは聞けなかった。
 捺奈さんの手が小夜の髪をかき分ける。小夜のうなじには、相変わらず、怪しく光る蝶が羽を揺らめかせていた。


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