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WestendCompany.
まだ世界へは還らない
 始めに気付いたのは中学のときだったと思う。
 五時間目の教室、周り中話し声に満ちてて、先生が窘める前に俺がぼそりと言った。隣りは休みだったし、ほぼ吐息だったから多分誰にも聞こえてない。

「うざい…黙れよ」

 五秒後、ぽっかり沈黙の時間ができた。
 黙るタイミングがあまりにもぴったりでクラス中大笑いして、結局注意された。
 別のとき、廊下にたむろってた柄の悪いのに言った。

「どいて」

 多分俺はこのとき機嫌が悪かった。そしていやにあっさり道が空いて拍子抜けしたのを覚えてる。
 電車で見つけた痴漢に「降りろ」って言ったらほんとに降りた。
 授業で無駄話始めた先生に「授業進めて下さい」って言ったら授業に戻った。
 どうしてこんな小さなことで済んだのか今でも不思議だ。






 俺は軽度の邪眼(イビルアイ)を持ってるらしい。

「段階があってね、一段は魅了二段が服従、三段は気絶で四段は発狂、五段が死亡なんだ。五段以下でも、発動時間が長いとこころを壊すくらいはできるよ」

 この眼を自分のものにできる人は稀だと言われた。人に限らず、大概暴走させて自分も狂うんだそうだ。
 俺の場合は言葉を発さなければ発動しないとも。






 由夢は貴重らしい。俺の影響を受けないから。何でも言える誰かがいるのは嬉しい。
 でも由夢は自分にも線を引いている。
 いつ死んでもいいように準備してる気がした。






 さて、この状況どうしようかな。
 由夢がぐるぐる巻きにされるのをなんとなく眺めながら、俺はぼーっと考えていた。

「…おいこら、相棒の危機になんで突っ立ってんだあんたは」

「危機か?」

 たかだかお前が身体拘束食らったくらいで。
 むしろなんで自分で逃げないのかが不思議だ。
 由夢を縛り終えたらしい男が由夢を地面に転がした。おかしい。由夢だったら両手使えなくてももう少しうまく倒れるのに。

「麻痺毒?」

「…ごめん、まずった」

 俺からギリで見える由夢の顔が歪んだ。やれやれ、周りに武器持ちの黒服十人、由夢庇いながら相手とか、俺の対人技術じゃ無理です。しまったこれから宗茄と合流だからって、魔法具防御系のリストひとつしか持って来てない。由夢はイヤリングだったかな。役に立つ立たないの前に、由夢のところ行くまでに蜂の巣のような気がする。
 由夢に銃を向けて、額に傷がある男が嗤った。

「さて、恋人の命が惜しければ、質問に答えてもらおうか」

 由夢がその台詞に噛み付いた。ていうか口は利けるんだ、麻痺毒ってよりセックスドラッグじゃないか? 質問後は拷問かな。由夢回されるのはやだな。こんなのに処女強奪はいくら何でも由夢が可哀相だ。

「ふざけろ誰がこんな甲斐性無しの恋人だ!」

「いつも思うけど甲斐性無しはやめろよ」

 知るか! と斬られるのもいつものことだ。
 気の抜けかけた数名が立ち直る前に伺いを立てる。

「いい?」

「…後で怒られるといい」

 由夢はあまりこれが好きじゃない。俺もそうだけど。

「―――そこの額に傷のある男以外の全員、」

 わざわざ声の調子なんて変えない。言霊込めなくても発動する。
 ぐるり見渡して言った。

「疾くこの場を去れ」

 そしてほんとうにそうなった。
 悔しそうな顔をしながら退いて行く黒服たち。一人残された傷の男は、由夢から照準は外さないが僅かにうろたえた。
 逆らえなくて当たり前。だって俺は王だから。
 ぶっちゃけ邪魔以外の何物でもないけどね、うっかり我が儘なんて言ったら周り中あらゆる手段使って叶えようとするからね、んで弊害は俺のところ来るんだよ俺悪くない。え、悪いのか俺。俺を王にしたのは世界なのに。自分の望みが全部叶ったらいいなって、思ったときもあるけど実際そうなるとうざい。重い。ほしかったのにいらないってなる。
 結論。王様になんてなるもんじゃない。

「さて、と」

 みんないなくなって、目をやったらあからさまに怯えられた。え、ちょっと傷付くよそれ。

「質問があるって言ったよね。言えば? 答えられるなら教えるし」

「また始まったよ、うちの王様の気紛れにも困ったもんだ」

 由夢が言った。体が動いたら肩を竦めてるだろう。
 着いて来れてない傷の男に、俺は唇の前に人差し指立てて笑って見せた。

「それとさ、さっきのあれ、できれば秘密にしといて」





…世界に愛された人間の不幸はありふれてる。


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あきゅろす。
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