WestendCompany.
思うこと。
郎暉のうちに、紅茶貰いに行ってた。
律暉くんいなくて、リーク連れて来てなくて、郎暉のお母さんは取材だとかでいなかった。
「ろうき、」
誰もいなくてちょっと暗くてやたら静かな部屋で、郎暉がくれた紅茶のカップ両手に抱えて、あたしはぽつりと呟いた。
「泣き言言っていい?」
「……」
郎暉はあたしの真向かいのソファの背に手を掛けて黙って立っていた。
「あたしさぁ、」
「……」
普通になりたかったの。
もう手遅れだけど。
あたしね、朝は母親に起こされて、遅刻ぎりぎりで自転車漕いで学校着いて、授業中に居眠りして、休み時間に寝てたけどばれなかったぜーみたいな話して、ALTの先生の質問にとんちんかんな答え返して、現文の先生の悪口言って、お弁当友達と食べて、クラスの男子が馬鹿やるの見てけらけら笑って、小テストの追試受けて、売店のシャーペンの芯の話とか大真面目にして、小テスト合格して追試になった人に嫌み言われて、宿題やってなくて必死でやって、教科書忘れて他のクラスの人に借りに行って、特別教室の掃除しに廊下歩いてたら友達に会ったりして、部活の先輩に態度悪いとか敬語使えとか言われて、帰って来たら縁切りしたはずの元クラスメイトの長電話付き合わされたり、期末の結果親に怒られたり、日付変わるまでメールやったり、次の日やっぱり寝坊したりしてみたかった。
「…できなくはないじゃん」
郎暉がぼそっと言った。
「できなくはないよ。できなくはないけどそれって違うの。あたしやりたいことと違うの」
俯いて、カップを頭の上に乗せる。このまんま手ぇ離したら紅茶被るよなぁとか思って、溜め息吐いて下ろす。
「あたしはさ、放課後とかに誰かが付き合ってるとかもう切れたとか、告白して付き合って別れて、学祭の打ち上げとかで煙草吸って見つかって親呼び出す羽目になる普通が欲しかったの」
「…普通じゃないだろそれ」
「普通だよ。その後ダレか変なのに引っ掛かって強姦とかされてエイズ移されたりしても、それ転落の仕方普通じゃん」
あたしは、と言った声が掠れた。
「そーゆーふつーの幸せが欲しかった…っ」
だって今あたしそのスタート地点が違うんだよズレてるんだよおかしいんだよ、元から踏み外しててもう戻って来らんないんだよ、
何も言わない郎暉が表に出さずに泣いてるのに気付いて、自分のかなしいのと郎暉がかなしいのとを乗せて泣いた。
(ああこいつはまだ泣けるんだ、と思いながら、その望みが過去形なことに、俺はそっと目を閉じた)
…頭の中ド暗なため暗い話。相里ちゃんは割りかし普通。
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