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WestendCompany.
紗(隔て壁)の向こう


 ぺこりと頭を下げたのは可愛い女の子だった。

「はじめまして、小夜です」

「…ども」

 頭を下げ返して、少し迷って、本名を名乗って「流」と呼んでほしいと言った。
 なんだかいつもみたく「流が本名だぜっ」とか言ったら駄目な気がした。






 小夜は強かった。
 魔物ばきばき倒してって、俺は何にもしなくてよかった。

「あの、俺前線出るよ?」

 返り血を綺麗に避けてて全く汚れてない小夜に言った。前線っていうか、俺の能力は結界だから、囮めいて前に出て襲って来た奴結界で防いでる間に言霊でずどん、だけど。
 小夜は笑わない顔をちらっと見せて、「結構です」とだけ言った。
 …会話弾まねぇぞ畜生!
 森の真ん中で俺は途方にくれた。






 勇者様ご一行の手助けとか、俺ら手ぇ出さない方がいいんじゃ、
 と俺はものすごく思ったが、小夜は逆のようだった。

「うっかり予想外の外的要因混じったらどうするんですか」

「うんそもそも俺らが外的要因だけどな」

「知りません」

 斬って捨てやがった。
 火山の火口目指して歩きながら額の汗を拭う。これから上まで行って、それから地中まで降りるらしい。くっそう黒服着て来るんじゃなかった考えるだけで暑い。
 先に行ってた小夜が戻って来た。ウエストポーチから取り出したのは…ハンカチか?
 確かに手のひら大だったそれは、ばさりと広がって人ひとりがすっぽり覆えるくらいの大きさになった。待て待てそれどーやって畳んだんだ。
 向こう側が透けて見えるくらい薄いそれが俺に被せられた。…涼しい?

「これ、被ってて下さい。暑いのいくらか平気なはずです」

「へー…」

 こういう不思議アイテムにも大分慣れた。ていうかこれあれだな。

「濡れ衣?」

「違います」

 俺の台詞をまた斬って捨てて、小夜はまたとっとと駆けてった。

「…って、小夜は!?」

 無防備に身一つで行こうとしてるらしい小夜を呼ぶと、平然と右手の手首を示された。

「大丈夫です」

 そこにあったのは青い玉の細い腕輪だった。…水の防御リングですか、なるほど。
 俺は有難く薄物を頭から被って、小夜の後を追った。





 魔王の城の結界内に入っちゃえばもう暑くなかった。
 返そうとしたけど、「ちょっとは攻撃弾けますから」と小夜が受け取らなかった。

「…あのね小夜、俺の能力知ってる?」

「知りません」

 だと思いました。
 俺は溜め息を吐いて、丁度小夜の後ろから来てた雷を結界内に閉じ込めてみた。あ、中で超反射してる。楽しい。
 ぱっと振り返った小夜の顔はさっきまでの無表情より三倍くらい可愛かった。
 結界を少しずつ縮めて動きを制限していく。内側から弾けるぎりぎりの大きさまで、調節は難しいけど妨害ないからだいぶ簡単。
 エネルギーの大きさを正確な球にして結界を解くと、ばちばち火花が散ってる金色の球体が残った。
 うまくいった。
 俺は上機嫌で、そのエネルギー球の手前に作った結界を拡大して、エネルギー球を正確に術者に向かって送り返した。

「ふふん、俺ちょっとすごくね?」

「すごいです」

 突っ込まれると思って言ったのに真面目に返された。しまった地雷。

「…あーえー、とりあえずこれ返す」

 薄物を小夜に差し出すと、小夜がふるふると首を横に降った。

「そのまま持ってて下さい」

「や、だからいらないって」

「そういう意味でなく。それは黒服の方が映えるので」

 ビジュアルの問題ですかあねさん。
 俺は盛大に呆れたが、とりあえず畳んで腰に巻いてみた。
 内側の黒が透けてきらきらしていた。






 神殿のようになってるそこは綺麗でシンプルだったけど暗くて気持ち悪かった。なんでだかはわかんないけど。

「空気が悪いんです」

「それは換気されてないって意味じゃないよな」

「澱んでいるって意味なら同じです。ここは本来、あちらとこちらが近付きすぎるのを防ぐ目的で作られた場所ですから」

「でも魔王のご登場によりおもくそ接近中、ってか」

 はン、と溜め息を吐くと小夜に否定された。

「あれは魔王じゃありません」

「………はい?」

「魔王の闇はもっと強い。あのひとはただ力が強いだけ、ちょっと肥大しただけのいきものをいちいち魔王だなんて呼びません」

 街ひとつふっ飛ばした(らしい)奴を魔王と呼ばないそうですこの方。
 この女の子は何を見て来たんだろうとちょっと不安になった。







 魔物は殆どいないようだった。

「予想よりあちらの動きが早かったようです」

 たたたっ、と床を蹴りながら小夜が言う。軽い足音、でも結構速い。俺は俺で走り回るのは慣れてるから、二人して結構な速度だったりする。
 あちらイコール勇者様ご一行、だ。先行されたらしい。

「追い付く?」

「最終目的地は同じなので」

 それはつまり魔王の玉座だ。
 ちょっと背中寒くなったので唇を舐めて誤魔化してみた。無駄だった。

「うーわ壮絶行きたくない…」

「でしたらどうぞ。あたしは止めません」

 いやそこは止めようよ! と思ったけど言うのはやめた。

「……急いだ方いいよね、」

「はい」

「じゃ、ちょっとごめんっ」

 ヴん、
 走ってた小夜を結界に閉じ込めて上に飛び乗った。すぐに球型のそれを移動させる。目指すは玉座。
 流れない空気を切って進む球は走るより速い。髪を括った紐が落ちそうで手で押さえた。

「小夜! 道こっちで合ってるよね!」

「合ってますけど、なんで上なんですか!」

「ビジュアル的問題!」

「中にいて下さい、狙い打ちされたらどうするんですか!」

 それもそうだ。
 納得して、小夜入りの結界ごと俺の周りに結界を張って小夜のとこのを消した。スピード落とさないようにするのは結構骨だけど、まぁいい。
 惰性でぐらつく体を支えて、ひとつ溜め息。と、小夜がこっちをじっと見ていた。

「えーと…何?」

「…随分力を使いこなしているようなので」

「意外か? 俺努力家だぜ?」

「自分で言うと説得力失せますよ」

「いやこれほんとだから。移動させっぱで結界の張り直しとかすっごい難易度高いから」

「知ってます」

 だったら褒めてくれてもいいじゃん。
 そのまま前を向いた小夜の横顔を見ながら、俺はこっそり唇を尖らせた。




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