WestendCompany.
只今先行中。
流血表現注意。
ステップを踏む。
これは神に捧げる御神楽。髪ひとすじまで世界に捧げるための舞。
血で汚れゆく地を清めるための。
振り抜いた右手に肉を断つ感触。そのまま半回転、同時に上半身を沈めて一撃を避ける。獣に半ば侵食された人間の爪。ぎらりと弾いた光は紫。
左の鞘で空振った左腕を押しやり空いた左の脇を腰までかっ捌いた。咆哮。悲鳴。
とんとんとん、
一歩引いたついでに喉に致命傷を作り、後ろ向きで爪を避けて一歩、三歩目で背後の影の顎に鞘をぶち当てる。追撃で左腕落として、跳躍。
「はぜた赤の悲鳴は他者の中にのみ存在する!」
俺が蹴った床の一点から渦巻く炎が駆け抜ける。上へ。空へ。獣の悲鳴が三つばかし上がる。残りひとつ分を上げさせるつもりで繰り出された爪を鞘で受け流し、すれ違い様に首を落とした。……あ、悲鳴上がってない。失敗。
立っているのが俺と宗茄だけであることを確認して、俺は刃を一振りして血糊を払った。
「血塗れね」
自身は埃すら被っていない宗茄が、全身から血の匂いのする俺を見て言った。表情がまるで動かない。皮肉にすらならないな。
「もーちょい考えてやれば?」
「前線立つ奴がも一人いたら考える」
「…………あんた今いてもいなくても関係ないぜって言ったわね」
「そこまでは言ってな、」
振り返り様に右頬が熱くなって一瞬で消えた。
視界がぶれる。
「直刃!」
宗茄の声が上から聞こえる。上。なんで。
目の前が紫がかって歪んだ。あ、やばい、これ、麻痺毒…?
「金の花の園、銀の花の園、慈愛の神の園の花、」
どうやら耳は死んでないらしくて宗茄の詠唱が聞こえてくる。ていうか馬鹿、今にこっち来るってのに結界のひとつも張らないで、
言ってやりたいけど口が動かない。ああ倒れてるなこれは。声が上から聞こえるわけだ。肩とか打ってないだろうな、感覚切れてるから分かんない。利き手潰されたらやばいんだけど、左はまだいいんだけど、どうなんだそのへん。
宗茄の心配をしてたくせに宗茄が解毒することを欠片も疑ってない自分が笑えた。
「枯れ落ちた花弁、黒の花の欠片、ここに印を残す」
全身の血液が絞られた感じがした。感覚が戻ったことは感謝すべきなんだろうが、正直嫌だ。
立ち上がる。他に傷はないから乾いた血がばりばりして気持ち悪いだけだ。傷の治療をしたわけじゃないから頬がぴり、と痛む。
「……あー……要さん早く来い」
「まったく、ね。でないと直刃が無茶し続けて水輪さんに泣かれるわ」
思わず沈黙すると「直刃、」と呼ばれた。
「始めるよ」
「…あいあい」
姿勢を低くして唇を舐める。人のものとは違う、でも鉄臭い味がした。
「略式詠唱バズマラル第四章二段の発動を申請する」
淡い虹色の陣が足元に浮かんで、左肩のあたりで小さな稲妻がばちんとはぜた。
二十秒の二倍速の代わりに十秒間の移動禁止、だ。後払いの代価。
上等。
「十秒静止中にやられても助けらんないからな」
「それを一番分かってるのはあたし。それじゃ、」
魔導書の頁を押さえていた宗茄の手が、すっと伸びた。
「Go!」
…生き残ることに疑問を感じない。
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