03. ラブレター
携帯電話が主流となった今
ラブレターなんて笑われる?
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03.ラブレター
ソファーでそのまま寝てしまったらしいアタシが眼を開けると弘はもう居なかった。
その代わり、作ってあったオムライスのお皿が空になって水に付けられてあって。
ちゃんと食べてくれたんだって思う反面、何で一緒に食べてくれなかったの?起こしてくれれば良かったじゃんて、不満ばっかり増えていく。もしこれがあの人だったら一緒にご飯も食べてくれて会える時は会ってくれるんじゃない?
身勝手な創造が膨らんで膨らんで、弘に感じる寂しさだとか虚無感を消したい一心で気が付けばレターセットを取り出してた。
理想像を作ったって仕方ないんだから。あの人と喋ってみたい、あの人を知りたい、あの人を好きになって弘を忘れたい。
□
「勢いで来ちゃったけど…」
弘の事を考えてると何か自棄になっちゃって、手紙を書き上げて家を飛び出したものの。
人生初のラブレターにアタシは気持ち悪いくらい汗が流れてて、目の前にある酒屋を前に引き返したくなった。
だってやっぱり緊張するし…ラブレターだって“良かったら連絡下さい”の一言だけでラブレターっぽくもない。
急にこんなモノ渡されたって迷惑っていうか不気味なんじゃない?
やっぱり帰ろう、そう思った時視界に入ったのはカップルに見える男女2人組。
「…、弘?」
笑い合う2人はアタシと居る時より全然楽しそうで、嫉妬より自分の価値がくだらないものの様な気がした。
「そうだよ、弘だって好きにしてるんだもん」
ウダウダ考えてた頭を吹っ切って、街中へ歩いてく弘を見ない様に手紙を握り締めた。
今は手紙を渡すことそれだけを考えて一歩ずつ足を進める。
「、」
途端店から出て来たと思えば違う人で、良かったのか良くなかったのか出てくるのは溜息。
どうしよう、本当に緊張する。
だけどもう渡すって決めたんだもん、女に二言はないんだから。そう思ってウロウロ、不審者極まりないアタシが1時間くらい店の前に居てもあの人は現れない。
今日はタイミング悪いのかな、なんて思ってるとまた別の人が出て来て煙草に火を点けた。
このままアタシが此処に居たら変な女が居る、とか噂されるかもしれなくない?
それは流石に嫌なんだけど。
「……………」
もういい、今日あの人は休みで居ないのかもしれないし。意を決して一服する人に近寄った。
「あ、あの、」
『え?』
「すみません、これを…」
瞠若して眼を真ん丸くするその人に手紙を渡すけど、結局アタシ不審者みたいで…でも引き返せない。
「この店に25歳くらいの人居ます、よね…?彼に渡して欲しいんですけど…」
『あー、財前君のこと?』
「す、すみません、名前は分かんないんですけど、」
『ハハッ、若い子はアイツだけだから』
「そうですか…」
『これ渡せばいいの?』
「は、はい!お願いします…!!」
ニコニコしてくれたその人に頭を下げて良い人で良かったって。
もしかすると気味が悪いって連絡来ないかもしれないけど、その時はそういう運命だったに違いないし…だけど連絡が来るといいなって祈って家まで走って帰った。
「あああ…緊張した…!」
走ったせいもあるけど心臓はあの時からドキドキバクバク煩くて、ヘタレなアタシも意外と根性あるんだって褒めたくなって、何だか良く分からない状況に笑いが止まらなくなってた。
「メール、来るかな…」
2つ折りの携帯を開いては眺めて、また閉じて開いて。
じっとしてられないのに何も手に付かないアタシが繰り返しそんな事をしてると画面はメール受信に切り替わる。
「あ!メール…!!なんだ、チェーンメールか…」
期待して開いたメールはどこかのサイトからのチェーンメール。
人生そう上手くはいかないよね、なんて思ってると再度鳴り出すメール受信音。
「今度こそ、……」
震える手の中、映された画面は知らないアドレス。
(手紙貰いました)
本当に、本当にあの人からメールが来たんだ…嬉しいのにいざどうしていいか分からなくて、返信画面を出すけど親指が動かない。
「ど、どうしよう…」
とりあえず謝ることが先決だよね…?
急に手紙なんか渡して、誰かも分からないのにメールくれて有難うって、それを伝えなきゃ駄目だよね…?
普段、友達や弘とメールする時は言葉を選んだり迷うことなんて無いのに凄く緊張して、その緊張が疲れるのに心地良くて楽しい、だなんて。
「メール、送信…」
10分も掛けて打ったメールを送信して、直ぐ返事したら待ってましたってバレバレで笑われるんじゃない?変な不安まで込み上げる。
やっぱり30分くらいは開けた方が良かったかな、アタシってば本当に頭悪い…!
馬鹿だ馬鹿だ、そう携帯を握ってると直ぐに返事が届いて。
(ちょっとビックリしたけどええスよ。それに誰か分かるし。よう店の前通る人ですよね)
「―――――」
アタシの事、あの人も知ってたんだ。
久しぶりに泣きたくなるくらい感動したんだ。
(20090515)
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