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02. 携帯電話の本音




“昔に戻れたらいいのに”


まさか自分がそんな事を思うなんて。




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  02.携帯電話の本音




あれから1ヶ月、弘とあの人を天秤に掛ける毎日が続いた。

遊んだりすることも無くたった一通だけのメールをやり取りする弘と、帰宅路にある卸業者の酒屋で働くあの人を眺める毎日。
両者変わらない距離だけど、確実にあの人への気持ちは膨らんでる気がしてた。勘違いかもしれないけど眼が合ったような気がしたり、1日も欠かさず会える中である日はビール箱をトラックに積んでたり、ある日は外で煙草吸ってみたり。それを見るだけでドキドキ止まらなくて、心が暖まる様な癒される様な、一瞬の時間が凄く幸せだった。



「え?電話…?」



明日も会えるかなぁなんて顔を緩ませていると、いつもならバイトしてる時間なのに弘から着信があって。
久しぶり過ぎる着信音が妙に懐かしくて、同時に変な焦燥感が溢れて、どうしようかと迷いながらもゆっくり受話ボタンを押した。



「、弘?」

《何やってんの?》

「別に何も…っていうかバイトは?」

《今日休みになった》



聞こえる声は動揺してた落ち着かせてくれる。やっぱり、好きが全く消えた訳じゃないって実感する。
だけど急にどうしたの?何かあった?逆に心配になるんだけど…



《今から行ってい?》

「行くってアタシん家に?」

《他に何処があんの。っつーか行くから家に居ろよ》

「ひろ、……切られた、」



自己中、言いたいことだけ言って好きな様に行動する一方的な態度には呆れるけど…それでも久しぶりに会えるんだって思うと、今はあの人が頭から消えてるくらい弘でいっぱいになる。

現金かもしれないけど、素直に嬉しかった。
だけど喜んでだけじゃなくてせっかく弘が来るんなら晩御飯でも作ってあげようって張り切ったのに、冷蔵庫を開けて残ってた材料を見ると簡単に作れるオムライスけらいしか出来ない。

同棲生活みたく一緒に過ごしてた時は失敗した時ですら『変な味ー』だとか文句言いながらもちゃんと食べてくれたんだもん。今日だってオムライスだけど食べてくれるよね?






『名前、』

「あ、弘!」



そして野菜とお肉と格闘すること30分、後は弘が来てから卵を焼くだけの状態で居ると合鍵で部屋に入って来た弘。
当たり前だけど何も変わってない姿がアタシの部屋に居るっていうことが歓喜で。
なのに弘は、



『……太った?』

「は?」

『何か顔に肉付いた気する』

「な、来るなり失礼過ぎるんだけど…」

『しょうがないじゃん、本当にそう思ったんだし』



顎に手を添えてづけづけと鬱陶しい言葉を並べる始末。

あのね、1ヶ月以上もこうやって会ってなかったんだよ?普通もっと他に言う事あるんじゃないの?



「弘、」

『俺眠いんだよね。ちょっと寝かせて』

「ちょ、今来たばっかりじゃん!」

『お疲れなの、分かるだろ?』

「……………」



極め付けはアタシのベッドに転がって即座にスヤスヤ吐息を立てて爆睡。

本当、一体なんなの?毎日毎日遅くまでバイトしてるのは知ってる。学校もなんだかんだで毎日授業受けてるのも知ってる。だけど来て早々それはないんじゃないの?
結局は都合の良い女でしかないってこと?



「超ムカつく」



言葉とは裏腹に、気を緩めて眠る弘を見ると……そんな苛々も飛んでっちゃって。男の子の寝顔は卑怯だって思った。

本当はもっと話したかったのに…
だけど今日こうして普通に会ってくれたってことは、これから昔みたいに戻れるのかもしれない。



「…おやすみ」



そんな期待が込み上かったばっかりに、アタシはやっちゃ駄目な事をやらかしてしまった。
それは弘の携帯に秘められた本音を探ること。



(若人、最近名前と上手くやってるのか?)



弘が仲良くしてる梶本君からのメールの返信に、



(ぶっちゃけしんどい)



そう書かれてた。

普段の生活が知りたくて携帯に伸ばしてしまった手が憎くて、見えた現実が哀感以外の何物でもなくて、下口唇を噛みながらソファーに突っ伏した夜8時。




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次回から光登場予定です…!
それにしても見苦しい文章に脱帽(-ω-)

(20090501)


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あきゅろす。
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