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【離れてても心は一緒…なんて、強がってみても】

春。
始まりでもあり。
また、終わりでもある。

僕たちにとっては、別れの春だった。



別に一生のお別れってわけじゃないんだ。
大丈夫。

でも、どんなに平気な振りをしてみても。
やっぱり先輩には全部まるっとお見通しだった。

…敵わないなぁ。




○。寂しい兎
I love you




「しんみりしてんな」
「してません」

ぐっと力を入れて涙をこらえる。
先輩の前では泣きたくない。
わかられてるからこそ、弱いところは見せたくなかった。

「無理すんなよ」
「してません」

顔を俯かせて頑なに首を振る。
先輩は小さく溜め息を吐いた後、ぽんと軽く僕の頭に手を乗せた。
それからわしゃわしゃと撫でられる。

「な、なんですか…?」

そのまま無言で撫でられる時間が続いた。
な、なんだろう…。

「俺は寂しーよ」

ぽつり、と言った先輩はいつもと違う低い声で、ドキッと胸が高鳴った。
じっと先輩を見上げる。
そう言えば出会った当初は、僕の方が背高かった気がするんだけど、いつのまに抜かされたのだろう。

「なあ、お前は?寂しくねーの?俺の行く大学、こっから遠いって言わなかったっけ?」

「…ッ」

考えないようにしてたのに。
言葉が詰まって、そこから何も言えなかった。
黙って首を振る。

「なあ、ゆーと」

僕を呼ぶ声はドコまでも優しくて、甘くて。
胸が、ツンと痛くなる。
意志とは関係なしにハラハラと涙が頬を伝った。

「…っせ、先輩ぃ」

なんでこんな時ばっかり反則的に優しいんですか。
どんなに我慢したって、泣いちゃうに決まってるじゃないですか。ずるい。

「ぐす…ずるいですよぉ…」
「よーしよし」

子供みたいに泣く僕を、先輩は優しく抱き締めてくれた。
赤ん坊をあやすように軽く背を叩かれる。
ぎゅっと先輩にしがみついた。


「なぁ、さびし?」

耳元の声に体を震える。

「…寂しい、です、よ。でも、言ったところで、先輩残ってくれるわけじゃないですし。残られても…困るし。だから、言わないつもりだったんです。なの、に……」

せっかく先輩受かったのに。
凄い奇跡だって、担任の先生泣いたほどだって聞きましたよ。
そんなミラクルを、僕のわがままで幻にしたくない。

「ゆーと、俺の行く大学知らねぇだろ」
「え、あ……?そう言えば、遠いってことくらいしか…?」

いきなり話題が変わったことに面食らい、顔を上げた。
先輩がとても楽しそうに笑ってた。

今日はやたら言い含むなあ。



「N大学」

「え?」

一瞬何を言われたのかわからなくて、ゆっくりと瞬きをした。

「そ、そこって…」

僕が、行きたいって言ってた…。

「前にゆーとが行きたいって言ってたかんなー。中曽根ちゃん…あ、俺の担任な、には、無理だ無理だ言われ続けてたんだけどさ」

確かに、失礼な話、先輩にとってはかなりハードルが高い大学だ。
なるほど、奇跡…か。

僕がぽかんと見てると、先輩は照れ隠しに卒業証書の入った筒で額をぐりぐりとしてきた。

あの、先輩、僕、自惚れてもいいんですか?

「もしかして先輩…」

「…おーよ。待ってっからさ…ちゃんと、追いついてこいよ?」

「…っぁ」

ボロボロと、また涙が溢れてきた。
僕ってこんな泣き虫だったんだ。

でも、だって。
あんなに勉強を嫌ってた先輩が。
僕のために、なんて。

嬉しすぎてどうにかなっちゃいそうだ。


「僕、がんばりますから…中退、しないでくださいね」

「あー……まあ、頑張るわ」

そのことを忘れていたのか決まり悪そうに答える先輩に、思わず笑みがこぼれた。
お互い見つめ合って、どちらともなくそっと唇を重ねた。

僕はもう、大丈夫。
辛くないと言ったら、寂しくないと言ったら嘘になる。
でも、先輩が待ってくれてるから…。


大丈夫。





「さらば我が母校ー!」

我が校伝統儀式の1つで、卒業式の後クラスみんなで手を繋いで一緒に校門を出て行くというのがあった。
今年はそれが8クラス分行われる。去年より一個多い。
掛け声はクラスごとに違っていて、それを考えるのだけでも盛り上がるクラスは大いに盛り上がるらしい。
僕ら在校生は、先輩たちの旅立ちを思い思い自分たちの教室から見守るのだった。

いつからこの儀式が伝統になったかはわからないけど、すごくいいものだと思う。
去年卒業した先輩たちもそれはそれは楽しそうに外に飛び出していった。


友達と笑いながら去っていく愛しい先輩の背中を見送る。

一時期大学受験のために黒くなっていた髪も、もうすっかり元に戻っていた。
それが陽を受けて輝いて、眩しかった。


さようなら。
また、明日。


愛しい人。




……………………………
『離れてても心は一緒…なんて、強がってみても』
企画「あのね、先輩」投稿作品。


強がってみても、には繋がらない感じですね(苦笑)
最後の伝統儀式はお気に入りです。

ここまで読んでくださってありがとうございました。

20080102
戸隠澪子


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