魔法の言葉は滅びの呪文
私は利己的な人間であると自覚している。
自分が傷付くのは嫌だし、有益にならないことはなるべくやりたくない。
だからか、私は人と関わるのが苦手だ。
(私の世界が震え上がる)
(誰かが私の殻を叩く)
「神凪、お前はどう思う」
急に話を振られ、私はたじろいた。まさか意見を求められるとは思っていなかったからだ。
進行役を務める真田はそんなことはお構い無しに、どうだ、と私を促した。
「私は」
あぁ、心臓が痛い。
「真田の意見で良いと思うよ」
上手く笑えてる気がしない。
だけど、真田は上手く纏めてくれた。
他の人の意見をちゃんと聞ける真田は凄いと思う。
大体上に立つ人間は自分の意見を押し付けてしまいがちになるものだ。だけど真田は自分の意見もちゃんと主張しつつ、相手の意見も聞き入れる余裕が在るように思う。
私は小さく息を吐いた。もう少しで授業が終る。早くこの空間から出たかった。
「ときや」
チャイムが鳴ったのを見計らったかのようにかけられた声に、思わず眉を寄せてしまった。
きゃあ、という女の子の黄色い声が耳に痛い。
この声が誰のものかなんて、振り返って確かめるまでもない。
「…何か、用?」
気が向いた時だけフラりと現れる、少し痛んだ銀色の髪の男。
「なんじゃ、冷たいのぉ。
ほら、こっちゃみんしゃい」
仕方無しに振り返れば、そこには予想通り、仁王雅治が立っていた。
嫌なんだよ、仁王は人気あるから、こうやって話しかけられたりすると、…ほら。何か女の子の視線が痛い。無視したらしたで何様のつもり?みたいなこと言われるし。私にどうしろと?
「何?私ご飯食べに行きたいんだけど」
「そうか、ナイスタイミングじゃな。俺も行く」
「断る」
「何でじゃ?早く行かんと場所無くなるんじゃなか?」
ヒソヒソ声が聞こえる。誰のことかも何を言ってるのかも解らないけど、心臓が痛い。怖い。
―――なにが?
「ほら、ときや」
ぐいと手を引かれて、歩き出す。仁王シンパの女の子の悲鳴が聞こえた気がしたけど、もう、どうにでもなれ。
仁王とは1,2年の時に同じクラスだった。3年になって別れて、実は少しほっとした。
仁王は優しい。誰にでも笑う。でも、時々眼が笑ってない。
私に優しいのも偽りなのかも知れないと考えると、悲しくなる。何処までが本当なのか解らなくて、恐くなる。
だから、真田と一緒のクラス(今は班も一緒だ)になれて安堵がかした。真田は解りやすい。嫌いなことははっきりきっぱり言う。いっそすがすがしいほどに。
(何で構うの。私はあんたの暇潰しじゃない)
「今の時間、此処は意外と穴場なんじゃよ」
連れていかれたのは校舎裏で、何かリンチされそうな場所だな…なんてバカなことを思った。
「弁当じゃなか?」
「今日はコンビニ」
「ふぅん…」
「そういう仁王は何なのよ」
「ときやとおんなし」
にこりと笑った仁王はかっこよくて、私は自分が狼狽えてるのが解った。木々から漏れる光が、更に仁王の魅力を引き立ている。
思わず眼を逸らした。
「…ときやは」
明るい声音の中に若干の蟠りを感じて、私は顔を上げた。
「真田のことが好きなんか」
…………はぁ?
私は多分、酷く間の抜けた顔をした。
ほら、やっぱり仁王は解らない。
「…好きか嫌いかと問われたら、まぁ、好きと答えるけど」
「…暑苦しくないか?」
「誠実で素敵だと思う」
困ったようにいえば、仁王は口ごもる。何なのよ。
「真田は止めときんしゃい」
「何でよ。つーか何でそうなるの、あんたに口出しして欲しくないし」
「ときや、」
「大体仁王に関係ないじゃん!」
私は、多分自己チューなんだ。だから、自分が傷付くのが嫌なの。
私を、見て欲しいから、だから。あたしを無視する世界が嫌い。
「関係、ないじゃない…」
言ったら、悲しくなってきた。あ、何か涙出そう。
仁王は何も言わないけど、何か言われても困る。私はきっと冷静な応答が出来ないだろう。
「関係、ある」
固い声に、のろのろと顔を上げた。男の子としては、普通くらいの背の高さだけど、それでも私より10センチは高い、仁王。
滅多に見ない真剣な顔に背筋が伸びる。嘘かホントかなんて、もう解んない。
「真田に盗られとうない」
「……はぁ?」
「好きじゃ」
一瞬、私は仁王が何を言っているのか理解できなかった。
仁王が、あたしを。
理解した瞬間高揚した気分を、何とか抑え込む。
「またぁ…そんなこといっちゃって」
「冗談じゃなか。嘘でも何でもないけん、俺と付き合ってくんしゃい」
「にお…」
真摯な瞳が私を射抜く。
心臓が、ヤバいくらい高鳴って、どうしよう、あたしはきっと。
「好いとうよ」
仁王が、好きだ。
悔しいくらいに。
魔法の言葉は滅びの呪文
(私の世界が、今壊れた)
title by ruinous669:嘘つきは笑う
過去作品のそC
はい、仁王夢です。
甘…いですかね。切な甘くなってたら嬉しい。
真田夢にするか迷ってた名残が冒頭に…(笑
(ときや、俺のアクションにちっとも気付いてくれんから、焦った)
(だって……!
それに仁王、二つ名が詐欺師だよ?信じろってのが難しい)
(だからって、よりによって真田…)
(だって真田は嘘つかないもん!)
(…解った、ときやの前では嘘つかん)
(だから信じて)
(―今のが、もう嘘じゃん)