[携帯モード] [URL送信]
嘘の数



「ねぇ、亜久津」


ときやはブランコを漕ぎながら、眼前で煙草の煙を遊ばせている人物を見た。







「――あ?」
「あたしねぇ、あっくんがすきだよ?」
「あっくん言うな」
「キヨと同じか、それ以上」

ねぇ? ときやは漕ぐ足を止めず首を傾げる。
亜久津は意図を探るように眼を細めてときはを見た。
視界の先でときやはくつりと笑む。

「それと同じくらい亜久津が嫌い」

勢いをつけ、ときやはブランコから飛び降りた。
亜久津の方へ、何の言葉もなく。
しかし亜久津は慌てもしないで、ゆっくりと煙草をくわえるとときやを抱き止める。
小さく咳き込んで、ときやは笑った。

「う〜…気持ち悪い。三半規管は鍛えられないからね」

ふらふらと体を起こそうとしたが、亜久津はそれを許さない。
抱き締められた腕に力が入ったのを、ときやは他人事のように感じていた。

亜久津だったら、もっと力を入れたら私の体なんか折ってしまえるかしら?
その牙で、喉元を喰い千切って、息の根を止めてしまえるかしら?

犬歯が鋭かったかさえも思い出せないのに、何故かリアルに想像出来て、それがまた笑いを誘った。

「疲れたならそういえ」
「まだまだ元気だよ。まだ、大丈夫」
「そんな顔して、説得力ねぇんだよ」

そんな顔?どんな顔?

「俺に嘘つきたきゃ、ポーカーフェイスを身につけるんだな」
「仁の得意なやつね」
「お前が下手なだけだ」

亜久津は何時もよりもずっと柔らかな動作でときやの髪を撫でた。

「俺の前では、嘘を重ねなくていい」
「―何、それ」
「俺には解るって言ってるんだよ」

亜久津が頬に唇を這わす。ときやは擽ったそうに身を捩った。

悔しいけど、仁にはには敵わないのだ。それが嬉しくもあるのだけれど。
背中に手を回せば、喉で笑われる。それも嫌味に聞こえないのは、あたしが仁のこと好きで、すきでしょうがないから?
弱音を許さない仁が、甘えを許してくれる。それだけできっと、あたしは掬われるの。
真っ暗で、真っ白な空間から、いつも引き上げてくれるのは。

「すきだよ、仁」
「解ってる。だが今度千石の野郎と比べたら、ボコすぞ。―千石を」
「了解」

ときや、微笑んだ。








End...
(ねぇ、すきだよ)



過去作品そのB
初あっくん夢!何か微妙ですが…。
私表記はたまにあたしって書きたくなる罠。








[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!