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透明な未来への岐路で


私の日常が変わったのは、

間違いなくこいつのせいだ、と思う。




* *

(それはきっと、自然な流れだった)





ときやは向かい合わせにした机の向こう側に座り欠伸を押し殺した忍足を盗み見た。
いや、と小さく首を振って自分の思考に訂正を入れる。
忍足は本当に良い友達だ。良い、とは少し語弊があるかも知れないが。
問題は忍足じゃない、一番の原因は、こいつの所属する部活の部長兼生徒会長。

「なんやじっと見詰めてきて。全然進んどらんやない」
「侑士があんまりにかっこいいから、つい」
「いややわ心にもない、で、どこが解らへんの」

するりと流されてしまってときやは口を尖らせた。仕方なく教科書に視線を戻す。
そう、何故ときやが忍足と机を合わせているかというと勉強を教えてもらっているからだ。
科目は、数学。数字ばっかり並んでいる様は古代文字のようだ、とときやは思う。

「何で今日部活ないの?」

ときやはシャープペンをくるくると弄びながら訊ねた。
忍足は教科書を捲りながらさあ、と答える。

「跡部の用事かなんかやない?」
「えーめっちゃ私用じゃんそんなの!自分だけ休めよ俺様め」
「まぁ、俺等にも休息は必要やし。―でも、なんやろうな」
「パーティーだよお偉いさん招いて!跡部が猫被って正装して踊っちゃったりして!!」

あはははは、と抑えきれずに声を立てて笑えばつられて忍足も笑い、そして止まった。
しまったという風に口を押さえるのを見てときやは首を傾げる。
ゆうるりと己のノートに陰が落ちるのを確認して、ときやは青くなった。

「俺様の話か?そんなに恋しかったか」
「(うわ、出た!話をすれば何とやらだね、この地獄耳!)
いやいやこんにちはご機嫌麗しゅう跡部様」
「ふん、誰が地獄耳だ。様付けするな。
それに私用は私用でも部に関係有る私用だからな」
「(うわー心の中読まれた!?人間か?こいつは本当に人間か!!??)…そうですか」
「俺様にケンカを売るとは良い度胸だ。買ってやろう、有り難く思え」
「いっとくけど高いから!半分は前金だから!!」
「まーまーまー、ときや、もう何言ってるのかわからんよ」

突然背後に現れた跡部に文字通り飛び上がったときやは忍足に宥められて平静を取り戻した。
跡部は蔑むように忍足をみてからときやの頭をわしゃわしゃと撫でる。

「言葉の理解できない丸眼鏡は置いて、帰ろうぜときや」
「厭だよ私は侑士に色々と教えてもらわなきゃならないんだから」
「まず言葉を理解できない丸眼鏡を否定して欲しかったわ…」

がっくりと肩を落とした忍足を無視して跡部は続ける。

「俺が教えてやるよ、何でも望むままに」
「結構です。侑士で充分!さーわーらーなーいーでー!!」
「照れるな、今更。俺等の仲だろ」
「どんな仲やねん!!」

髪の毛を指先で扱う跡部に思わず関西弁で突っ込んでときやは仰け反った。
跡部は不服そうに眉を寄せる。

「おたく眼鏡の方が良いなんてどうかしてるぜときや。ほら帰るぞ」
「人の話を聴けこの泣き黒子の金持ちぼんぼんめ!!」
「俺様に跪け!」
「訳解りませんから!!!」

ぎゃーぎゃーと一気に騒がしくなった教室。
忍足は二人を見ながらこっそりと笑った。
正直忍足はこの二人がこんなに上手くいくとは思ってもいなかったのだ。
まぁ、仲が良い、と断言は出来ないが。
それでもあの跡部が一人の人間にこんなに執着するとは驚きだった。そしてときやも。

「侑士、これじゃ勉強にならない!!」
「やろうね」
「侑士ん家行く!!!」
「あーん?拒否する」
「あんたには言ってない!!」

まるでコントをしているようだ。
くすくすと笑って、忍足はときやに教えるために開いていた自分のノートを閉じ、鞄に詰めた。
ときやもそれに倣って己の教科書やらノートを鞄に入れる。

「じゃあ、ばいばい跡部。私は愛しの侑士くんと帰るから」
「あーん?その丸眼鏡の帰る家ってのは眼鏡ケースのことか?無理だ、ときやは入れねぇ」
「跡部、いくら何でもそれちょっと酷い」

むうと眉を潜めるときやに忍足は顔を綻ばせ小さくガッツポーズを作った。

「(どうや跡部!!ときやは俺の味方や!!)」
「ふん、まぁいい、帰るぞときや」
「今までの流れ全部を無視しないで!!」
「この前いってたときやが好きとかいう店の菓子を買って帰ろうぜ」
「帰る!!」
「ときや!?」

突然の裏切りに忍足は思わず声をあげた。
跡部は勝者の笑みを浮かべていたし、ときやの思考はすでにお菓子にいってしまっている。




菓子に負けた…!!!




忍足はがっくりと肩を落とした。が、他の誰も気にとめない。


「じゃ、ゆーし、まったねー!!」


先程までの攻防戦がまるで嘘のようにときやは跡部と仲良く肩を並べて教室を出ていった。
確かに、確かに彼処の菓子は上手い。上手いが高い。
跡部に買わせる以外ときやに手はないだろう、きっと。
跡部もそれをわかっていて話をだしたのだ。
畜生め、と忍足は机の上にこれ見よがしに置かれた眼鏡ケースを乱暴に鞄に突っ込んだ。







END...

そのA
これが一番初めに書いたやつらしい…。





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あきゅろす。
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