それでも世界は廻ってる
宍戸が、風邪で休んだ。珍しい。実に珍しい。
と、いうことはですね。私は久しぶりに授業をボイコット出来るわけで。
それでも
世界は廻ってる
宍戸は私の良い兄貴分だ。同じ学年なんだけどね、面倒みが良い奴だから助かってる。無気力な私を見てられないんだと。(腹が立つというかハラハラするらしい)でも、たまにはサボりたくもなるわけで。
「い〜い天気」
中庭の小道を抜けたところにあるちょっとした広場が私のサボり場所だ。屋上も好きだが先客が居ることが多いので、最近はこっち。芝生は手入れが行き届いて気持ち良い。制服が汚れることも気にならない。
仰向けに寝転んで少しすれば、小石を蹴る音がした。もう一人のサボり仲間、忍足侑士だと思った私は眼を開けて起き上がる。しかし、視界に写し出されたのは、丸眼鏡の長髪ではなかった。
光に透けるような茶色の少し癖の入った髪に(セットしてるのかも知れないけど)、クリアブルーの瞳。極めつけは右目の下の泣きボクロだ。
跡部景吾…この学校で彼を知らないものは殆ど居ないだろう。生徒会長であり、あのテニス部を束ねる部長だ。そして宍戸の幼馴染み。確か、ね。
(優等生がサボり!?)
「サボってんじゃねーよ」
「あんたこそサボりじゃないの?」
そう思ったが違うらしい。その手には、携帯。それを目の前に突き付けられて驚いた。
「宍戸からメール来たんだよ」
忌々しそうな舌打ち。ていうか亮…律儀ね。何というかごめんなさい。あんたの予想通り私はサボりました。
でも、可笑しい。もっとこう、私と近しい人が居るでしょ!?忍足とかジロちゃんとか!
「てめぇのサボり仲間にメール送ってどうすんだよ」
(読まれた!?)
流石は跡部様。読心術もマスターしているとはお見逸れしました。
でも、嫌だなぁ。跡部なんかと話してるとファンの子に睨まれちゃうよ。そう思って私は訂正を入れる。
(侑士のファンにはもうとっくに睨まれてたぜ☆)
宍戸のファンには、そう言う子が少ない。それは宍戸の人柄に惹かれる子が多いからだろう。
ふと跡部を見上げる。光の中の跡部はきらきらしていて綺麗だと思った。ファンの子の気持ちも、解らなくはない。
「来なきゃ良かったのに」
「あぁ?」
「宍戸に言われたからってあんたが従う必要はないじゃない」
逆ならまだしも?そこまで言って口を押さえた。
(しまったタメ口きいちゃった!)
「悪いか。俺が来ちゃ」
「…別に。意外だっただけです」
「何で急に敬語なんだよ。構わねぇよ」
「…あ、そう。…忍足は?来ると思ったんだけどなぁ」
「途中であったから還した、無に」
「無に!?」
相変わらず忍足の扱いは酷いみたいです。哀れ。
「ほら、帰るぞ」
跡部が、手を差し出してきた。怖すぎる。何を企んでいるんだろう。
でも、どっちみちこの時間はあと少しで終わってしまうんだし、意味ないよ。
「ヤダ。この時間だけ、ね?」
「ときや」
急に名前を呼ばれて驚いた。知ってたんだ。
…あ、そうか。忍足も宍戸も私のこと名前で呼ぶもんね。
少しだけ、がっかりしたのは内緒だ。
「…この時間だけだぞ」
そう言って跡部は私の隣に腰を下ろす。私はまた吃驚して跡部を凝視した。
跡部は気にした様子もなく横になる。私は瞬きを繰り返すしかない。
「跡部も…さぼる気?」
「てめぇを連れて行かなきゃならないからな」
「…ちゃんと行くもん」
「良いから、静かにしてろ、ときや」
跡部はそういって瞳を閉じてしまった。私も仕方なく壁に寄りかかって瞳を閉じる。
風が、凪ぐ。暖かな光は、陰影を強める。
私たちの間には奇妙な静寂が漂っていた。
End...
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