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2 奪われる




興味というのはどんなものだろうと敏樹は考えてみる。
知る、という行為がもたらすものとは何なのか。
――例えば、あの男の名前。知らなくてもそれなりにやっていけたものだ。しかし敏樹は知ることを選んだ。それは何故か。興味をもったからだ。
男に差し入れをするのに、何が好きかも気になったし、嫌いなものも知りたくなった。それは、嫌いなものもを無理に食べさせるよりも、好きなものを美味しく食べてもらいたかったからだ。どうせなら喜ばせたい。その気持ちは善意か。何だか違うような気がした。言ってしまえば、ただの自己満足だ。
敏樹は歩みを止めた。空は直に暗くなるだろう。太陽の姿は半分以上地平線に隠れている。
どれくらい男と話をしていたのだろう。敏樹は家を出た時間から計算しようとして、止めた。知っても無駄だと判断したからだ。敏樹はきっと繰り返すだろう。男と過ごす時間は穏やかであり、刺激的でもある。それは敏樹にとってマイナスにはならない。
興味とは、自分の時間を割くことだ、と敏樹は思った。何をしたら喜ぶのか、悲しむのか、何を考えているのか。相手の心情を考える為に時間を割く。時間が、思考が奪われることだと思う。
突き動かされる衝動、つまり言動の動機が興味だというのなら、過ぎる興味は病気だ。
卵を割った時に現れる黄身のように真ん丸なはずの月は、寒さのせいか滲んだ敏樹の眼には、失敗して潰れてしまった卵のように歪んで見えた。

「(奪われる。でも、同じくらいか、もしかしたらそれ以上与えられる)」

自分の中のバランスが崩れて、平静を保てなくなる。それが怖い。せっかく積み上げたものが、脆くも崩れさる錯覚。例えるなら砂上の楼閣。
増えすぎた何かを、敏樹は切り捨てる術を持たないのだ。












奪われる
だから与えない。
それが錯覚にすぎなくとも


2009年4月28日




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