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角砂糖は微睡んだ




黙礼した艱苦派生。
 (横森:噂について)





どうしてなのかしら。
横森は何時も不思議に思っていた。
どうして男女が一緒に居るだけで、詮索したがり面白おかしく脚色をつけて噂にするのかしら。
横森には、その心情が解らない。
実を言えば、横森と敏樹のことが噂になったのは、これが初めてではない。一番最初に噂になった時は、横森と敏樹が行動を共にし始めて暫く経った時だった。噂を耳にしたとき、横森は素直に驚いたが、敏樹は心底呆れたような顔をして、やっぱり出たか、と呟いた。敏樹の呆れたような表情は珍しくなかったものだから、横森の中にはその言葉だけが鮮明に残っている。
"やっぱり"。敏樹はそれが当たり前のように予期していたのだろう。

「何驚いてんだよ?」
「だって、あなたは解っていたみたい」

告げれば、敏樹は更に呆れたような表情になった。

「解りきったことだと思うけどね」

それきり敏樹は口をつぐんでしまったので、横森もそれ以上は口を開かなかった。
こそこそと囁かれても、堂々と大衆の前で関係性を問われても、敏樹の横森に対する態度は変わらなかった。だから、横森は敏樹が何を考えているのか解らなかったし、横森から態度を変える理由も見付からず、結局、そのままの関係をまるで惰性のように続けていた。今思えば、もしかしたらそれが敏樹なりの反発だったのかもしれない。男女間での友好関係の成立を、示したかったのかもしれない。今でもそれは聴けずに、横森の考えでしかない。
噂は、一ヶ月経つ前に消えていった。何の反応も示さない二人に、周囲は興味を失ったように、また新たな噂の真相を確かめるのに忙しいようだった。

「皆、他人事に忙しいのね」
「自分の事じゃないからな。楽観的に好奇心を満たせる」
「自分の事を噂されたらどう思うか、考えないのかしら」

横森が首を傾げれば、敏樹は短く、さぁ、と返した。

「考えないんだろ。もしくは考えないようにしているのか、噂されるようなネタがないのか」

ふうん。横森は小さく瞬く。

「それはそれで、気の毒ね」
「なかなか言うな」
「私たちのこんな会話も、十分お節介よね」

そう言って、横森は笑った。
そんなこんなで横森と敏樹の関係を噂されるようなことは無くなったが、去年、神宮が入学して横森に熱烈な告白をしてから、それは再発した。下級生の中にはずっと気になっていた人間が多かったらしく、落とされた火種はあっという間に広がり、知らない人間を探す方が困難だと思われるくらい、周知の事実となったのだ。
盛大な勘違いをされ、喧嘩を売られ、吊し上げにあった敏樹は流石に今回は耐えきれなかったらしく、神宮に面と向かって宣言している。友達だと。友達ではいけないのか、と。横森は、少なからずその変わらぬ友情が嬉しかったりもしたのだが、もしかしたら後には退けなくなった敏樹の意地だったのかもしれなかった。
まあ、真意はどうであれ、今も横森と敏樹は"友達"だ。神宮はそれが気に入らないらしいが、いくら横森に好意を寄せてくれているのだとしても、友好関係にまで口を出されるのは辞退したかった。
敏樹はいつもの呆れたような表情を浮かべていたが、何だか疲れているようにも見えた。

「毎日が変わらない日常の繰り返しだなんて思ってるから、非日常に飢えてるんだ。変わらないと思うのならば変えれば良いのに、小さなスキャンダルに食い付いて尾ひれをつけてでかくしていく。後のことなんか考えないで、今その現状を楽しむことしか考えていない」
「そうね。もしかしたら人間の遺伝子には野次馬根性というものがインプットされているのかもしれないわ」

真面目な顔をして告げれば、敏樹は微かに笑った。横森は、そんな、時折溢す優しげな笑みが好きだった。勿論、伝えたことはない。

「ねぇ、敏樹。神宮と闘う必要なんて、無いのよ。どだい無理な話よ、だって土俵が違うもの。それどころか本当なら対戦カードだって組まれていないんだから」

だから。
あの時、私は何て繋げようとしたのかしら。
横森は神宮の顔を眺めながらぼんやりと思った。少々過去にトリップしていたらしいことを頭の片隅で認めながら、敏樹の、横森、という掠れた声を聞く。
あぁ良かった。生きていたのね。言おうか言わないか迷い、横森は別の言葉を音にする。

「私、敏樹のこと、好きよ。だから、これからもずっと友達のままでいてね」

それは、ある意味において、二人の未来を位置付けるものであった。















こっちの横森の方がある意味素直で純粋…なのかな?とか。

角砂糖は微睡んだ : title by 水葬














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あきゅろす。
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