[携帯モード] [URL送信]
鳴り響く跫音





「怪我をさせたんだって?」



不意に背後から掛けられた軽やかな悪意に、平和島静雄は反射的に拳を翳していた。
それを軽々と避けて、声の主、折原臨也はステップを踏む。
蚤虫、と、殺意の篭った声音が呼んだ。

「ダメだよ。舘臥くんはね、可哀想なコなんだよ。だからシズちゃん、優しくしてあげないと」

怪訝な顔をした静雄に対し、にこり、と臨也は笑う。

「あぁ、もしかしてもしかしなくても自分が怪我をさせたコの名前を知らなかったりするのかな!流石だねぇ!そんな愚鈍なシズちゃんに、親切な俺は教えてあげよう」

臨也は静雄の言葉を聴かずに続ける。

「特別に、タダで良いよ。
えっとね、シズちゃんが怪我を負わせた彼の名前は舘臥敏樹、歳は22歳の大学4年生。卒業論文のテーマは…、あれ、何だっけ。まぁ良いや。只今独り暮らしの就活中、で、趣味はネットサーフィン。家族構成は父、母、年の離れた兄が一人。
――居ました、とさ。ねぇシズちゃん、舘臥くんと何を話したの?新羅のところで、彼に何を話したの?まさか、家族の話なんてしちゃった?したんでしょう!でもね、兄弟や家族の話なんて自慢話にしか聴こえないんだよ。だって彼には家族がいないもの!彼が小学4年生の時に自動車事故で皆死んじゃってるからね。しかも父親は暴力親父で、母親は典型的なヒステリーでさ。十離れた兄貴は物の見事に非行に走り、事故の翌週、タッチーを訪れたのはやくざの取り立てときたもんだ!
ねぇシズちゃん、どう思う?マンガみたいだよねぇ。彼にとっては現実だったわけだけど」

くすくす。笑いながら臨也は静雄の顔色を伺う。怒りの中に微かな驚愕を見つけ、満足したように付け足した。

「彼のお兄さんは模範的な堕落の仕方をしてね、万引きかつあげ、そしてドラッグ…。ヤクザの売り物に手を出して無事で居られるわけないのにね、ホント浅はかだ。まぁ、そんな人間が居るってのも面白くて良いけどね。うん、愛すべきは(人間)バカだよね」

臨也は楽し気に言葉を紡いでいく。それが静雄の苛立ちを煽ることを承知でやっているのだろう。時折瞳を過る憎悪が、声音に色濃く残る。

「ねぇ、何か言いなよ。ホント面白くないなぁ。それとも何?脳味噌まで筋肉になっちゃった?――――バケモノ」
「テメェッ」
「やだなぁシズちゃん、ホントのこと言われて怒るなんて、修行が、足りない、なぁ!」

音速で繰り出される拳をすれすれで避けながら、臨也は突き出された拳の軌道をナイフの柄でずらし、腹に刃を叩き込む。だが、刃はその強靭な腹筋により侵入を阻まれ、刃先の5ミリ程度しか肉体に埋まらなかった。
バケモノ、と臨也は小さく繰り返す。内蔵を抉ってやるつもりの渾身の一撃がこの様だ。微かにひきつった口元を歪め、無理矢理笑みを形作る。静雄の瞳は怒りに染まり、射殺さんばかりの勢いで臨也を睨み付けている。
臨也は笑った。
深く深く、総てを嘲笑うように。





「さぁて、この情報は何処までがホントでしょう、か?」








載せ逃げっ。
"磊落たる太陽"の続き。
 臨也+静雄:敏樹について
書き直すだろうけど、一先ずあげさせてくださ。冷めてきた(笑)




[*][#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!