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奇妙で不可解な想い


潮江文次郎という人間はおおよそ"可愛い"という形容詞が当てはまるとは思えない容姿をしていた。むしろその対極にいるのではないだろうか。
目鼻立ちは悪くないし、目はそれなりに大きい。しかしその下には色濃い隈があり、ぎょろしとした不気味な雰囲気を醸し出している。
口を開けばほらマラソンだ鍛練だと、同学年からも上下の学年からも"ウザイ・キモイ・暑苦しい"と厭われていた。とてもじゃないが、可愛いなんて言われるような人物ではない。
食満留三郎も、文次郎の陰口を良く聞いたし、内容の殆どを知っているつもりだ。喧嘩なんて日常茶飯事だったし、顔を会わせれば掴み合いの取っ組み合い、苛つきはすれども可愛いだなんて思ったことがあるはずもなかった。
ただし、ここで注意書きがつくことになる。今までは、と。
6学年になり、ようやく辺りを見回せる余裕が出てきたからか、食満は文次郎のことについて、色々と気付くようになっていた。
例えば委員会で徹夜明けのダルそうな表情だとか、例えばふとした瞬間頬を緩めた顔だとか。
いつもの眉間に皺を寄せた強張った表情ではないものを見たときに、ぎゅうと心臓を鷲掴みにされたような気分になるのだ。
思い起こせば、そんな文次郎に気付くようになったのも、文次郎当人を視線で追うようになったからであり、追うようになったというのは気になるからであり…。
気になる?文次郎が?そう考えて、食満は頭を掻き毟った。

「―――っだあぁぁあ!!」

んなアホな!と思う。思うが、全てを否定できない自分がいる。

「俺が、文次郎を…?」
「俺がどうした」
「だから、好きかも知れないって話だよ」

反射的に答えてから、食満は血の気が引く音をはっきりと聞いた。
ギギギ、と、油をさしていないブリキの玩具のように首を動かせば、ポカンと口を開けて食満を凝視している、文次郎の姿。
男、だ。どう贔屓目に見たって女には見えない。なのに自分は何を血迷っているのか。
ふむ、と文次郎が唸った。

「そのっ…」
「俺も嫌いではない」
「はっ?」

呆気に取られた顔で食満は文次郎を見返す。

「お前の対術は柔軟で見習うべきことも多いし、俺と手合わせ出来るやつはそういないしな」

そう言った後、照れたように微笑した文次郎に、見惚れた。そうか、と呟くように返すのが精一杯で、食満は逃げるようにその場を離れる。
喧嘩ばかりしていた。容赦のない殴りあいもしょっちゅうで、生傷が互いに絶えなかった。
クラスは違った。委員会も違った。それなのに良く顔をあわせたその訳を、食満は認めるわけにはいかなかった。



(これが恋だなんて、一度でも思った俺は可笑しいのだ)







奇妙で不可解な想い
拍手@とめともんじ

仙蔵と半助はすんなりと認められるタイプ。
食満は自分の中の常識が邪魔して葛藤するタイプ。






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あきゅろす。
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