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誓約を掲げて


いつもよりマシ(美人)な伝子さんをご想像下さい。当社比50%くらいで(←え?足りない?笑
ん?ギャグですよ?(゜∇゜)



… … … … … … … …




「どうしたんです?」

訝しげに下から顔を覗き込まれてもなお、半助は身動きが出来なかった。
顔が近い。半助の方が幾分か身長が高い分、このまま抱き込めてしまえそうだと思ってしまうほど、半助は困惑していた。
このまま顔を近付けてしまえば口付けられるだろうか。
眼を反らすこと無く眼の前の人を凝視しながら、半助の意識は迷走し始めていた。
これが山本シナや、せめてくの一教室の誰かならば半助も納得出来る。納得出来なくとも状況は飲み込めるだろう。
しかしながら、今半助が凝視しているのはくの一どころか女でもなく、年下どころか年上の、常なら化け物だったのである。
――つまり、同じは組の担任、実技担当の山田伝蔵の女装した姿であった。
彼―今は彼女だが―の女装は今に始まったことではなく、悲しくも見慣れてしまったその姿は、お世辞にも美しいとはいえないものだった。
は組の子どもたちからは気味悪がれ、滝夜叉丸などには汚いとまで言われ、闇夜に遭遇すれば十人中十人が逃げ出すであろう、そんな姿だ。良く良く考えれば酷い言い様であるが、フォローの言葉が見つからないのもまた事実でもあった。
しかし本人は気に入っているようで、息子に何と言われようと直す気は更々無いようだ。
兎も角も、眼前にいるのはその伝子さん本人である。それは半助も重々承知していた。
いたのだが、どうしても飲み込めないのだ。眼の前の淑女は、とても化け物とは言い難い容姿をしていたからだ。
本人曰く、潜入するのに町娘(娘には到底見えないが)では都合が悪かったらしく、山本シナに化粧、着付け、その他諸々を頼んだ結果の姿らしい。
確かに、山本シナならばやってのけるかも知れない。それほど高度な技術を持っていることは半助でなくとも解っていることだ。
解っていることだが…やはり納得いかないのだ。
幾らマシになったとはいえ、伝子さんは伝子さんであり、元を質せば伝蔵であることには変わりないのだ。なのにどうして自分はこんなにも平静を崩しているのだろうか。

「土井先生?大丈夫ですか?」
「……えぇ、…いや、はい…」

ギギッと軋んだ音がしそうな動きでやっとのことで視線を外して、半助は拳を握り締める。
何でこんなときまで女性を模した声を出すのだろう。動きまで流れるようで、どこからどうみても女性にしか見えないのだ。
相手はあの伝子さんだぞ!?白塗の化け物だ!!
――というか山田先生だぞしっかりしろ私!!
自分に言い聞かせるようにきつく目蓋を閉じた。
―――それがいけなかったのか。

「…………半助?」

脳裏に浮かんだのは、更に美化された姿であった、と、断言できる。
というか、このタイミングで名前を呼ぶなんて、ズルい。
半助は自分の殻がボロボロと崩壊するのを感じた。
そして悟る、自分の殻を壊すのはいつも伝蔵なのだと。

「山田先生っ」

半助はばっと眼を見開き、伝蔵―伝子さんの手を握る。

「山田先生じゃないわよぅ、伝子さんよ」
「はい、申し訳ありません、――伝子さん!」
「なぁに?」

ぎゅうと握った手は、しっとりとしていた。何か塗っているのか、滑らかだったが、明らかに男のそれだ。しかし半助は迷わなかった。

「伝子さん、結婚しましょう!」
「―――…は?」
「必ず幸せにします!」
「何の冗談かしら…?」

ひくりと引きつった頬を無視して、半助は続ける。

「ほら、何故か指輪もあるし!」
「何故だ!!」
「ね、これはしちゃうしかないでしょう!」

にぱっと笑った半助は、伝蔵―じゃなかった、伝子さんの手をとり、指輪を近付ける。

「必ず幸せにしますから」
「本気か」
「ええ、もちろん、本気


 ――――のわきゃないだろ――!!?」



半助は自分の叫び声で眼が覚めた。
ドクドクと心臓が大きく脈打ち、背中を冷や汗が伝った。
辺りをキョロキョロと見渡して、半助は漸く詰めていた息を吐いた。
伝蔵はいない。今朝、出張で出かけていった。

「だから、嫌だと言ったのに…」

山田先生の女装を見ると、魘されるんだよなぁ…。
呟いた言葉に、返事はない。
しくしくと痛んだ胃に、半助は項垂れ、頭を抱えたのだった。
どっとわらひ。








2008年9月3日 半助と指輪

日記でぼやいてた伝子さんに迫る半助。
やっぱりギャグにしかならなかったよ←



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