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移ろい行く


「玄南、また髪が伸びたんじゃないか?」


灰洲が玄南の頭を見てそう言った。玄南は口を開けたまま視線だけを上げて少し考える。もじゃもじゃとした髪が絡まりあって好き放題伸びているのが見えた。

「久しぶりに切るか」

そう言って灰洲は膝に手をついて立ち上がった。その後ろ姿をぼーっと見ていた玄南は自分の師匠が髪の毛を切る用意をしているのだと気付き瞬きを繰り返した。
しばらく正座したまま待っていたが、髪を切った後恐らく入らされるであろう風呂の存在にはっと気が付いた。
髪を切られるのは別に嫌ではない。きり丸は微笑ましいと言っていたが髪結いに行った限りおそらく他の家とは違うだろう散髪方法も別に嫌ではない。
しかしその後風呂に入るとなれば別だ。
玄南は師匠の背中を見たまますくっと立ち上がると出口の方をちらりと見た。灰洲は鎖鎌を手に取ったところだ。
玄南は出口に向けて一歩踏み出した。そのまま二歩目を踏み出そうとしたところで、

「こら!」

後ろから怒鳴られ玄南は両手を上げて驚きを表現した。くるりとその体勢のまま振り向けば灰洲が白い布を片手にこちらに近付いてくるところだった。

「髪が視界の邪魔になってはいかんだろう」

別に髪を切るのが嫌な訳ではないという意思表示にぶるぶると首を振った。首を傾げる灰洲におフロキライと呟けば、困ったように眉を下げた。
溜め息を一つ落として灰洲は布を大きく床に広げると、そこを指差しとりあえず座りなさいと言った。玄南ははい、と素直にその上に正座する。
じゃらり、と真横で鎖の音がした。よく聞き慣れた音だ、と玄南は耳だけでその音を追いかけ始めた。
灰洲は玄南の意識が違う方向に行ったのに気がつくと、ざっざっと危なげがない手つきで大ざっぱに髪を切る、というより刈っていく。
玄南は音に続きはらりはらりと視界の中を舞い始めた髪の毛を目で追う。しばらくすると玄南は今度はそれにすっかり意識を集中させてしまい、風呂をどう回避するか考えるのを忘れてしまった。夢中で目を忙しなく動かす。
灰洲はその玄南の様子にまだまだ子供だな、と口元を綻ばせた。

「はい、終わりだ」

そう言って師匠が玄南の着ていた着物の肩口についた髪の毛を手のひらで払った時、玄南はようやく布の上に散らばった髪の毛を数えるのを止め、散髪が終わったことに気がつくのだった。









集中が一つのことに続かない子供な玄南くん。可愛いよこの師弟。
しかし慣れないことすると文章が落ち着かない。もっと時間が動かない話書きたい。
いおでしたー。




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あきゅろす。
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