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魔怪の灯籠 序章



ゆらり、と影が動いた。
月の光も頼りない、鬱蒼と茂った森の中の一軒家の中だ。
家、というには古く狭く、壁には蔦が這い、地震でも起きれば崩れてしまいそうな、そんな佇まいだった。
家の中に居たのは壮年の男だ。隙間風に揺らされる蝋燭の明かりの下で、なにらや複雑な紋様の書かれた紙を広げている。
眼は鋭い三白眼で、鼻は威厳のある鷲鼻、髪は闇夜に紛れる漆黒、そして口元には少しの髭が揃えられている。
男は近くの机から筆をとって、紙に少しの線を付け足すと、片手で器用に丸めて紐で縛る。
ピィィ、と指笛を吹けば、ばさりと大きく翼を広げて鷹が傍らに舞い降りる。入ってきたのは、格子の朽ちた窓からであった。
象牙に鈍色の羽色の鷲だ。
眼の色は山吹色だったが、蝋燭の明かりに照らされて、真朱にも見える。不思議な瞳だった。
男はその足に紙を括り付けると、喉を一撫でして、顎を上げる。
それだけでよかった。それが合図になったように、鷲は空高く飛び上がる。そして、月を目指して飛ぶように、徐々に点になっていった。
男はそれを見送ると、蝋燭の明かりを吹き消した。
月明かりさえも遮る天井は今にも崩れ落ちそうだったが、それでも今はその予兆さえも見せない。
完全に闇に覆われた世界の中で、男はゆっくりと瞼を閉じた。
ホウ、と一声、木菟が鳴いた。





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