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肯定を叫べ

設定が現代っぽいんで、現パロ苦手な方は止めておいた方が無難かと。
あと、ナチュラルに伊作が鬱です←





ちゃぷり、という水音が耳に届いた。
たぷたぷと、ペットボトルの中で液体が揺れる。その中身は色のついたものではなく、透明なただの水だ。体調が優れないんだ、と溢したら、伊作がくれたものだった。
留三郎はペットボトルを持ち上げて、また揺らす。気泡がたっては消えていく、その姿を眺める。何ということのない、閉鎖された空間の中で、増えることのない酸素を水が取り込もうと足掻く姿。そんな見ていても何の特にもならない光景を眺めているのが好きだった。
例えるならばアクアリウム。酸素ボンベから配給される酸素が、水と反発しあい球体をなすその姿だとか、例えるならば、炎。マッチやライターで灯した炎が風に揺れる光景だとか、時折自分でもヤバイなと思うが、言うなれば人間の本能なのだ、と思うことにして諦めている。
留三郎はごく普通の人間、とは言えない領域に自分がいるのではないかと思っている。それは、天才からみた自分ではなく、おおよそ一般的と言われている人間からみた場合を指すが、そしてそれがきっと許容範囲内に在ることも解っていた。
自分が普通だ―普通、という定義をどうおくかで、また少しずつずれてしまうが、定義なんてものは、そういった意味では酷く曖昧だ―と思うのは、周りに集った人間が、言い意味でも悪い意味でも"普通"から逸脱しているからだろうか。
仙蔵の様に豪胆でかつストレートな物言いが出きるわけでもなし、文次郎のように視野が広く冷静でも、伊作のように卑屈でありながらも真っ直ぐであり続けることが出きるわけでもない。能力の飛び出た逸材は、嫌煙されるものだ。大多数と異なる、それが普通ではないということだ。
…留三郎は臆病だ。少なくとも自分ではそう思っている。
だが、類は友を呼ぶという言葉があるように、留三郎とて、端から見ればその異常な集団の一員で有り得るということになる。それが良いとか悪いとか、そう言いたいのではなく、ただ、どう見えるのかと疑問に思い、そういった人間も居るのだと、改めて心に留めただけだ。
ポツリ、と、此処にはいない彼に向かって呟く。

「カッターを握り締めて、それでもお前は他人に切っ先を向けないんだな」

それは伊作の意地にも見えた。見えた、といっても、留三郎は彼が自身を傷つける場面を見たことがない。実際、もしその場面に出会してしまったとしたら、自分は止めるのだろうか、とぼんやりと考える。きっと止めるのだろう。しかしそれは、刃物に恐怖する、人間の回避本能からだ。
留三郎は自分が自分で思っているよりずっと感情的であることを知っていたし、それでもなお、自分で思っているよりも客観的であることを知っていた。
感情的であるからこそ物事を感覚的に捉え、だから言葉に出来ない。しかしその感情が短絡的であり、浅はかであることを知っているからこそすぐに頭が冷め、高みから見下ろしているような錯覚に陥ることも解っていた。
もしかしたら、自分はただその光景を眺めているだけなのかも知れない。辺りが血に染まり伊作が倒れて動かなくなったとしても、人間としての背徳感と罪悪感と、血液の赤による視覚的興奮とを持て余しながら、ただ。水面へと向かう泡沫を見ているだけのように、初めから、関わる気がないのではないかと。

「だから、お前は俺の傍にいるのかな」

留三郎は、ペットボトルをカバンに仕舞うと、立ち上がった。
くらりと視界が揺れたが、構わずに歩き出す。
もしかしたら―。もしかしたら、自分が一番普通から逸脱しているのかも知れない。人間として必要な何かを、何処かに置き忘れてしまってきたのかも知れない。
自動ドアを潜り抜け、留三郎は眩しい程晴れ渡った空を見上げた。
このまま焼かれて灰になったならば、解りやすいのに、と俺は思うのだ。普通だろうが普通じゃなかろうが、結局ものの価値を決めるのは己なのだ。しかしそれすらも欺き眼を逸らす自分が、灰になったならば。
ほら、と、胸を張って言える気がする。
どちらにせよ、有り得ないことだ。それを鬱々と考える自分が可笑しい。そうだ、きっと自分は可笑しいのだ。
見上げた限り、雨は、降りそうもない。天気予報に心の中で悪態を吐いて、留三郎は歩き出した。
まだ、頭痛は治りそうもない。






080918
ただ、何となく、特に意味もなく。





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あきゅろす。
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