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逢いたさに、焦がれた想い


「山田伝蔵殿とお見受けする」

その男は、闇の中から静かに現れた。
身の丈は伝蔵よりも高く、手足も長いように見えた。
はぐらかした後の受け答えが面倒で、伝蔵はさっさと肯定する。

「如何にも。儂に何か用か」
「ご高名で在らせられるから、少し話しをしてみたくなって」
「高名?悪名高いの間違いでは?」

くつくつと笑った伝蔵にも、男の眼光は鋭いままだ。
じっと、見定めるかのようにひたと動かぬ瞳に、伝蔵は漸く笑うことをやめた。

「手合わせしたいではなく、話しをしたいと。変わった奴よ」
「……引退されたと、お聞きしました」

それはどうして此処にいるのかという答えを求めての言葉だろうか。
伝蔵は足下に転がっている、元は人間の肉の塊を見下ろした。後ろでは城の側の倉庫から火が上がっている。

「きれいさっぱり身を引けるほど、この時勢も職業も甘くはない」
「では、やはり退かれたのですか」
「やけに拘るな…。そうだ、私は今は戦忍びではない。―――落胆したか」

断定的な響きに、首を傾げたのは男だった。

「何故」
「そういう輩が多いからの」
「…私は、―――残念だとは思いましたが、落胆など」
「逃げたと思わんのか」
「思いません、あなたほどの忍びが」
「儂は臆病者ぞ」
「戯れ言を」

すっと眼を細めて、伝蔵は男を見遣る。逢ったことは無いはずだ。

「そこまで幻覚に肩入れする必要はない」
「いいえ、いいえ。私はあなたと一度だけ、お逢いしています。勝手な憧憬には変わり在りませんが、拗くれた噂を崇拝する愚かな奴らと一緒にしないでください」

男の声は真剣で、少しの怒りさえ感じた。
男は続ける。

「生き続けることは大変ですね。でも私は生きたかった、生きてみたくなった。あなたのせいです、山田殿。私はあなたに出逢ってしまったから、あなたが生きろと言ってくださったから、死を選べなくなった。修行を積みました、あなたは簡単には姿を現してくださらないから、必死になって探しました。なのにあなたは引退したと」
「―――――お前、」
「あなたと共に仕事をし、生きられると思ったから今まで頑張ってこれたのに」

突然の突風で、緩く巻いていた頭巾がとれた。
木々がさざめき、月の光に照らされて出てきたのは、若い男の顔。
その顔には見覚えがあった。当時見たときよりもずっと大人びていたが面影は残っている。

「半助、か」

伝蔵の問いかけに、男――土井半助は肯定するように頷いた。







080902 

思慕の情〜で、助けたけど連れて帰らなかったらこんな感じ?
とか勝手に考えて書いてみた(・∀・)




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