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孤高に咲く花に寄せる


半助は、近所の花屋に何となく足を踏み入れた。
特に何を買おうと思ったわけでもなく、強いて言うなら、道沿いに並べられていたトルコキキョウに眼を惹かれたからだろうか。
薔薇に霞草、マーガレットに、あれは何の花だろうか。
あまり詳しくないけれど、決して嫌いではない花を眺めていた半助は、店の奥の壁にこっそりと貼られていた一枚の紙を見つけた。
何だろうと覗いてみれば、何のことはない、家庭教師募集の張り紙だった。
今時珍しく墨で書かれているらしく、随分と達筆なそれに半助は興味を引かれる。
教科、時間、給与は相談とのことだが、住所もなければ電話番号もない。
不思議に思いながらもぼうっとその字を眺めていた。
別に、家庭教師をしたいと思ったわけでもない。勉強は決して苦手ではなかったが、特に急いでバイトを探しているわけでもなかったからだ。

「なんじゃ、家庭教師、興味あるんか」

急に話しかけられ、半助は驚いて肩を揺らした。振り返れば、店主である大木雅之助が立っていた。

「いやぁ、別に…」
「これは伝さんとこの利吉って坊主の家庭教師募集の紙でな。年の割に大人びた面白くないガキなんだが」

否定した半助の言葉は耳に入ってないらしく、雅之助は続ける。

「頭は悪くない。なのに何故家庭教師を探しているかというと、経験値が低いからじゃ」
「経験値?」
「そう、額面上で知っていても仕方ないということさ。だから伝さんは、利吉の容姿目当てでも金目当てでもなく、まぁ、簡単に言ってしまうなら、利吉と遊んでくれる年上の人間を雇いたいわけだな」

遊ぶ?と訝しげな声を上げた半助に、雅之助はわはは、と豪快に笑う。

「例えだよ、例え。泥沼を上から見下ろしている利吉の手をとって、一緒に泥沼に飛び込んでくれるような人物が理想だそうだが、モノは経験、どうだ半助、やってみるか!」

近所のよしみだ、紹介してやるぞ!と承諾もしていないのにジーンズのポケットから白い携帯を取り出してボタンを押す。

「お前ならワシも伝さんに推薦してやれるしの」

にかりと笑った雅之助を、半助はとめられない。それはもう、短くはない近所づきあいで分かり切ったことだった。

「あ、伝さん?ワシじゃ。利吉の家庭教師の件でな」

どこか遠くで、まるで人ごとのように雅之助の声を聞きながら、半助は一番近くにあったナスタチウムをぼんやりと見つめていた。







9月16日 現パロ良いよね現パロ。

雅之助が花屋…!(結構似合うと思うんだが)
ナスタチウムの花言葉は「困難に打ち勝つ」



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あきゅろす。
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