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まだ開かない扉を前に




(まぶ、しい)



坂本は空を見上げながら思った。空を遮るビル群は無く、建物もキャンパスくらいしか無くて、随分と健康的だな、と思う。こんなに落ち着いた時間を過ごしていていいのだろうか、と不安に思ってしまうのは、時間に追われる日本人の性質なのだろうか。それとも、性格なのか。
太陽に曝されていたベンチはすっかり熱を持ち、アスファルトからは照り返しが強い。薄汚れた白衣はそれでも光を跳ね返し、茶色に染められた髪は黒髪までとはいかなくとも熱を吸収してしまっている。
このままここにいたら熱中症で倒れるかな、と考えながら、坂本はのろのろと腕を上げ、光を遮る。腕につけた、決して安くはない時計の文字盤が、キラリと反射盤のようになった。



「倒れたいんですか?」



ひやり、と、した。
突き詰めて見ればスポーツドリンクを当てられた左頬だけなのだけれど、その声を聞いた瞬間、何処、とは言えないが、意識が冷えたような気がした。まるで酷い悪戯をしようとしたのが見付かった子どもの気分だ。
振り返れば、少し短めのスカートをそう強くもない風に遊ばせながら、女の子が一人立っていた。
立っているだけにしては妙に存在感があり、その立ち姿は様になっている。腰まである長い髪は、漆黒。今触ったら、火傷するかも知れない。
タキヤシャくん、と、坂本は彼女を呼ぶ。

「先生が今倒れても、助けてくれる人間などいませんよ」
「きみが居るじゃない」
「迷惑です」

ピシャリと言い切られてしまって、その潔さに逆に坂本は笑ってしまった。いっそすがすがしい。

「うん、―うん、そうだよね」

ごめんね、と謝る。それが本心からではないことを、きっと平は見破っているだろう。
しかし、だからといって坂本はどうすることもしない。ただ、真剣に誤魔化すのが面倒だという理由なのだけれど、平はそれすらも解っているかも知れない。ごめんね、ともう一度繰り返して、笑った。

「…だから、倒れる前にさっさとそれを飲んでください。
授業が休講になるなんて、余計迷惑です」

呆れたような表情に、坂本は笑みを深くした。
彼女は他人に興味がない人間だが、根は優しい子なのだ。少なくも坂本はそう思う。
平と坂本は、違うようで似ているのかも知れない。ほんの、少しだけ。
平も坂本も、それを指摘したりしないし、だからといって何かあるわけでもなし。暗黙の了解のように、平と坂本の間には見えない、しかしはっきりとした境界線が引かれている。いつか、ほんの少しでもそれが薄れて、解らなくなってしまったら面白いだろうな、と坂本は笑う。眼を細めて口端を上げて、さながら不思議の国のチェシャ猫のように。人を侮辱したニタニタ笑いではない、だが、裏が在ると思わせる、不思議な空気を坂本は纏う。

「シチマツくん、元気?」
「…ナナマツ、ですよ。
至って普通です。病気はしてない、当たり前です。
食事のメニューは私たちが考えるんですから」
「そうだね、じゃないと困るよね」
「えぇ、あなたはクビになりすよ」

そういって、平は大きく微笑んだ。珍しい笑みだった。だから、つられるようにして坂本もまた笑う。笑顔に伝染効果があるというのもあながち嘘ではないのかも知れない。
そういえば、と、笑顔繋がりで脳裏にアホ面が浮かび上がる。

「井ノ原がね、きみに逢ってみたいっていってたよ」
「…一体、私を何のためにどう説明したのか是非聞きたいですね」
「うん?簡単なことさ。
滝夜叉くんはとってもかわいくって頭が良くて、そして努力家だって言った」

あとね、と、漸く坂本は差し出された冷たいスポーツドリンクを受け取る。そして、舞台役者のように、両手を広げて、その場でターンしてみせた。スポーツドリンクが、光を浴びてキラキラと光る。
スポットライトのようだ。平は眼を細めた。



「きみとおれは、似てるかも知れないってさ!」








(さぁ、考えろ!)
(パンドラの箱は開けぬべきか!)







…ごめんなさい超捏造orz
…力 尽 き た :)




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あきゅろす。
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