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刹那に咲いた



曇ってはいなかった。
生憎の雨だったが、小雨で風もない。
風がないのは良いのか、悪いのか――煙が止まり全景が見えない。
私は空を、否、空に咲く大輪を見上げた。
眩しいほどの光の粒子が幾重にも重なり、瞬きするのが惜しいほどに夜空を彩っている。
腹の奥に、はたまた心臓に響く轟音は、不快になどならず、それどころか気分を高揚させた。
夏の風物詩。私は花火というものが嫌いではない。むしろ好きな部類に入るのではないだろうか。


ドオォ……ン


光の花は瞬く間に闇に消える。
ハラハラと舞い落ちる。
なんと儚いのだろう。

私は隣の人の熱を感じながら、じっと空を見上げていた。
雷(ライ)が終わりを告げてもなお、私はそこを動かなかった。
私の住む場所では、花火は夏の終わりに咲いた。
だからだろうか。私は雷を聞くと切なくなる。
祭りの喧騒が遠くなるように、静寂の中、私だけが取り残されたような錯覚。
後には何も残らない花火が、刹那的だからだろうか。
解らない。解らないが、私は何故だか泣きそうになった。

「―――…戻りましょうか」

遠慮がちにかけられた声に、私ははっと彼のことを思い出した。
見れば、彼は柔らかに微笑んでいた。
その手は私に差し出されている。
私は小さく頷いた。その手を取るのは少し勇気の要る行為であったが、私は何とかその手を握り返すことに成功したのだ。

「また来年、見に来ましょう」

来年が在るのか。
二人で居られるのか。
約束事は時に虚しいだけなのだが、私は彼の優しさにすがりたくなった。

「……はい。そうですね」
「きっと、二人で」
「………はい」

私は彼のあたたかい手を握りながら、そっと眼を伏せた。
ほら、夏の終わりはこんなにも切ない。

空には、煙だけが風に流されている。






08/08/23

私=土井先生で(^w^)




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