小説
犬だっていいもんだ(前)
・総長たちと平凡
・見ようによっては愛され?
・(後)は暴力描写有り




 俺がこのチームに入ったのは、総長である梅田さんに憧れたからだ。
 俺はチキンで平凡で、チーム同士の抗争とやらに偶然巻き込まれなかったら、不良という存在に近づくなんてなかったと思う。いや、今でも不良や暴力は怖い。
 でも、周囲を取り囲む相手チームを次々となぎ倒していく梅田さんの格好良さに胸をわしづかまれ、梅田さんのチームが相手チームを沈黙させたところで駆け寄り土下座した。
 梅田さんも梅田さんのチームのひと達も、さっきまで出るに出られずびくびく震えていた平凡がいきなり近寄ってきたことに驚き、俺が「チームにいれてください!」と土下座したことに驚き、しばらく固まっていた。
 もちろん、最初は却下だった。
 そりゃそうだ。
 俺は喧嘩なんてできないし、情報屋(そんなものが実在するとは思わなかった)の真似事もできないし、なにができるかといえば沈黙を返すしかできない平凡だ。
 だが、諦めきれずに何度もお願いし、呆れた梅田さんたちが立ち去っても、その姿を何日もかけて探して、見つけて、お願いして、いい加減苛立ったチームの皆さんに殴られそうになったところで、梅田さんが折れてくれた。
 ただし、条件付き。
 最低限、逃げることを覚える。
 抗争には参加しない。
 チームだと名乗ってはいけない。
 つまりは幽霊チーマーというわけだ!
 いやいや、たまり場には顔出すよ? そりゃもうしょっちゅう。
 梅田さんに直接近づくのは、さすがに空気読んで控えるけど、俺は手当たり次第チームのひとに梅田さんの話をねだった。
 聞けば聞くほど憧れる、格好いい武勇伝の数々。
 俺の目はきらっきらしていたと思う。
 最初は鬱陶しがったチームの皆さんだけど、段々苦笑いしながら俺を受け入れてくれるようになった。
 うれしくて、うれしくて、楽しくて。
 俺はたまり場にくるたびにニコニコしていた。我ながら馬鹿っぽい。
 そんな馬鹿っぽい俺を犬っぽいと言ったのは、No.2の新島さんだ。それから、俺のあだ名は「シロ」になった。白井っていう苗字もあるが、明らかに白犬って意味だろう。別にいい。
 梅田さんも俺を「おい、シロ」って呼んで、無意味に頭を撫でたり、完全に犬扱いだ。別にいい。むしろ嬉しい。

「梅さん、シロちゃんにもそろそろ喧嘩教えた方がよくない?」
「なんやかんやでシロのこと知ってる奴は知ってますからねえ」

 俺が梅田さんの膝で頭を撫でられていると、新島さんとNo.3の荒谷さんが梅田さんに提案した。
 ちなみに、俺がシロって呼ばれるようになって暫く、梅田さんは完全に俺をペット扱いしている。この前は抗争に言った梅田さんたちを見送り、ひとりたまり場で留守番をしていた俺に、帰ってきた梅田さんは「留守番の褒美だ」といってビーフジャーキーをくれた。好物なので嬉しい。

「喧嘩か……」

 俺がビーフジャーキーに思いを馳せていると、梅田さんは考えるように呟き、俺の頭に顎を乗せた。体重はかけられていないので重くない。かけられていたら潰れている。梅田さんは百九十センチ台の身長に、がっちり締まった筋肉体系だ。しかもイケメンなんだぜ!

「おい、シロ」
「はい!」
「いいお返事ですねえ」
「あはは、シロちゃんますます犬っぽい」

 いいよ、俺は犬で。チームの犬っていうか梅田さんの犬でいいよ。

「お前、足はどんくらい速くなった?」
「五十メートルを八秒台です!」

 俺は空気が読めないわけじゃない(と思う)
 だから、梅田さんたちの「うわ、微妙……」という声に出さない感想くらい読める。
 でもでも、俺の元々のタイムは九秒で、これでもがんばったんだ……。まあ、足りないなら仕方ないよな。

「すいません、もっと頑張ります」
「あ、いや……」
「シロは頑張っていますよ」
「そうそう、頑張ってるがんばってる」

 気を遣わせてしまった……。

「あ、ほら、シロ。ためしにちょっと拳振ってみろ。教えるにしてもどの程度か見なきゃなんねえからな」

 梅田さんは話をすり替えた。やさしいなあ。
 俺は頷き、きゅ、と拳を握った。

「新島の手に一発打ち込んでみ」
「シロちゃんカモーン」

 俺は梅田さんの膝から降りて、手のひらを向ける新島さんと相対した。
 じっと新島さんの手のひらを見つめ、深呼吸を一回。拳を振りかぶる!

「なん、だと……」
「冗談でしょう……?」
「え、ええー……」

 拳が手のひらに打ち込まれた瞬間、吹っ飛んだ。
 もちろん、俺が。新島さんはなんともない手のひらと俺を見比べて困惑している。
 吹っ飛んだといっても、いち二歩後ろに踏鞴を踏んで尻餅ついただけだ。

「…………反作用のほうが大きかったみたいですねっ」

 精一杯の言い訳をした俺は、梅田さんたちの「ねーよ……」という空気を読んだ。俺も「ねーよ」って思う。


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