小説
君のことが好きだから
・ヤンデレと幼馴染
・ヤンデレなりの恋の応援



 大切な幼馴染の美鶴が「好きなひとができたんだ!」とうれしそうに報告をしてくれた。
 そのときの美鶴の表情ときたら、生来の明るさも増して光り輝かんばかり。
 俺は美鶴がうれしそうなのが嬉しくて、美鶴の笑顔を見れたことが嬉しくて、好きなひとのことを一番に話しに来てくれたことが嬉しくて、一生懸命話そうとしてくれるのが嬉しくて、うれしくて。

「でも、あいつ他に好きなやついるのかなあ……」

 自信なさそうに、しょんぼりとする姿が悲しくて。

「もっと自信持てよ。俺だって応援してやるから」
「へへ、ありがとうな! 孝治に話してよかった」

 俺は俺ができる全力で、美鶴を応援すると決めたのだ。



 俺が知る限り、美鶴に同性愛の気はなかったはずだが、そんなものは恋に落ちれば関係ないらしい。
 美鶴が好きになったのは、同性の後輩で、少し気弱そうな少年だった。儚げな美少年という言葉が似合う彼なら、美鶴を飾るアクセサリーくらいにはなるだろう。
 けれど、けれどけれどけれど。
 なにをトチ狂ったのか、その少年は俺のことが好きらしい。俺自身は美鶴の件がなければ少年のことなど知りもしなかったのだが、調べたところによると、俺は少年と幾度か接触していたようだ。というか、同じ委員会だった。美鶴もその時に少年に惹かれたらしい。
 許せなかった。
 美鶴は少年が好きなのに、少年は俺を好きだという。
 許せなかった。
 それが判明して美鶴が俺を厭ったらどうしてくれる。いや、それ以前に美鶴を知っていながら、それでも美鶴を選ぶその神経が許せなかった。
 だから、美鶴を応援すると決めた俺は、なにがなんでも少年に心変わりしてもらうことにした。

 呼び出された少年のうれしそうな顔に憎悪して、俺の並べる言葉に絶望する少年の顔に苛立って、逃げようとする少年を捕まえて……。



「孝治ー、俺、俺な、あいつと付き合えることになった! 色々相談にのってくれてありがとうな! 孝治のおかげだ」

 休み時間、美鶴は俺の腕をぐいぐい引いて教室を出ると、こっそりと恋の結末を教えてくれた。

「お前みたいな良い男だったら、叶わない方がおかしいだろうよ」
「おだてんなよ、調子にのるだろ」
「のれのれ。祝いにケーキ奢ってやろうか?」
「いや、むしろ俺がお礼に奢ってやる」
「んじゃチーズケーキのホールと、あ、三日月亭が秋の新作いくつか出してたな。それと……」
「お前いくつ食う気っ?」

 慌てながらも小遣いの計算を始める美鶴に「冗談だ」といって、さらさらの黒髪を撫でる。
 くすぐったそうに目を細めた美鶴は、ふと視線の先に少年を見つけて大きく手を振った。

「おーい、孝ぃ」

 ……そういえば、少年の名前は孝だったか。すっかり忘れていた。いや、覚えてすらいなかったかもしれない。だが、美鶴の声で聞いたなら、きっと忘れないだろう。
 孝少年は美鶴に気付いて満面の笑顔を浮かべた。きらきら曇りのない瞳、無垢という言葉がぴったりな顔。

「美鶴先輩、こんにちは」
「おう。なあ、孝は放課後暇か?」
「はい」」
「孝治とケーキ屋いくんだよ。あ、男がケーキ屋とか笑うなよ。でさ、孝も行かないか?」

 いいだろ? とこちらを見てきた美鶴に、不満などあるわけがない。俺は首肯を返したのだが、孝少年は張り付いた満面の笑顔のまま、ゆるゆると首を振った。

「いえ、お二人で行かれるのに割り込むなんて……」

 なにいってるんだ?

「気にするな。お前がいた方が美鶴も嬉しいだろう。なあ?」
「おう! ってなに言わせんだ、孝治。は、恥ずかしいなあ、もう……」
「じゃあ決まりだな。あ、そうだ委員会のことで知らせることがあったんだった。すまん、美鶴。先に教室に戻っていてもらえるか?」
「りょーかい」

 あとでなー、と手を振って駆けていく美鶴を見送ってから、俺は孝少年に向き直った。
 満面の笑顔に入りまくった罅。
 その腕を引いてひと気のない階段下の陰に移動すれば、罅どころか完璧にぶっ壊れた顔になる。

「なあ、なに美鶴の誘い断ってんの?」
「ひっ、す、すみませ」
「それもなに? ふたりに割り込めないって。俺がいるから嫌だってことだろ。美鶴が俺を邪魔だとか思ったらどうしてくれんの? 美鶴に嫌われたらどうしてくれんの? ダチに嫌われたい奴いると思ってんの? なに? それとも俺排除したいくらい美鶴に惚れた? それならまあ……って納得できるわけねえだろ。歩を弁えろよ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「んなイカレた顔してんじゃねえよ。美鶴はお前を可愛いっつってんだから、可愛い面維持しろよ。少しでも不細工になってみろ。整形させっぞ」

 整形で思いだした。
 美鶴がやっぱり女がいいって思うようになって、それでも孝少年が好きとか葛藤しだしたら、孝少年を性転換させねえと。
 あー、でも確か子供作っちゃいけないとか法律あったような気がすんなあ。国外だったら違うのか? 同性の結婚も認められてるし。まあ、できたら俺の子ってことにしとけば美鶴も安心できるよな。
 女になった孝少年が嫌んなるなら、今度はもっと美鶴に相応しいっつーか、美鶴好みの女捜して紹介すっか。
 きっと、美鶴は「ありがとう孝治!」って、やっぱりピカピカした笑顔で言ってくれるだろう。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「うるせえよ。見つかって美鶴の耳に変な噂はいったらどうすんだ。もういい。反省したなら失せろ」
「はい、ごめんなさい」

 逃げるように駆け出す孝少年を見送る必要性はなく、俺もゆっくりとした足取りで教室に向かう。
 美鶴、美鶴、美鶴。
 俺は幼馴染が誰より大事で大好きだ。
 きっと、美鶴が俺を嫌いになっても美鶴を大好きでいる。
 美鶴に顔見せんなって言われたら、俺は顔を見せない。こっそりと、陰から今までどおりの応援を続ける。
 でも、美鶴に嫌われたいわけじゃない。嫌われて平気なわけじゃない。

「孝少年が余計なこと考えないように、もう少しきつめの首輪つけとくかー」

 大好きなひとのために何かしたい。
 それは人として当たり前の感情だろう?


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