小説
小学生的思考回路
・非王道
・下品


 季節はずれの転入生がやってきた。それはいい。
 転入生は生徒会副会長の愛想笑顔を指摘して気に入られた。それはいい。
 転入生は同室になった不良とガチンコ決めて友情を築いた。それはいい。
 転入生は食堂で生徒会メンバーと接触、会長に気に入られた。これもまあいい。
 だがしかし、風紀委員長である吹雪にとってどうでもよくないことがそれぞれの過程の結果としておきてしまった。

「仕事放棄とかどうなってるんですかねえ?」

 生徒会メンバーも遊びたい盛りの青春ボーイズ、新しい友達に夢中になるのも仕方がないが、そのせいで仕事がおろそかになるのはよろしくない。実に、よろしくない。

「しわ寄せぜーんぶ風紀にきてんじゃねえかよ」

 吹雪が必死こいて書類作成だの申請手続きだのに追われている間、生徒会メンバーはきゃっきゃうふふと楽しそうに遊んでいる。これを見てイラつかない人間がいるだろうか。
 吹雪は最初こそ口で文句を言っていたが、その場でしか効果のないそれにしまいには疲れてしまった。

「ああ、風にでもなりてえ」

 自由になりたい。
 書類の山から解放されたい。
 そんなことを思いながら、今日の仕事の一つである初等部との交流会に参加した吹雪は、ふと賑やかな一角に気づき目を向ける。
 そこには無邪気な笑顔全開で騒ぐ初等部の男子生徒が数人固まっていて、吹雪はなにをしているのだろう、と思い近づいた。
 そして聞こえてきたのは三文字の単語。

「うんこー! うんこー!」
「えーんがちょ、えーんがちょ!」
「うぇえええい、うんこー!!」

 敷地に住み着いた猫の落し物か、木の枝に糞を突き刺し走り回る初等部の男子生徒は実に楽しそうだった。

(うんこ、うんこか……うんこがそんなにうれしいのか)

 なぜあの年頃の男子生徒はうんこに異常な興味を示すのだろうか。
 ふっと吹雪の口元に儚い笑みが浮かぶ。

(俺もあれだけはっちゃけられれば……)

 吹雪ははっとする。

(これは、いけるかもしれない……?)



 生徒会メンバーは転入生を生徒会室に連れ込んで優雅なティーブレイクを楽しんでいた。

「このお茶美味いな! クッキーもすげえ美味い!」
「気に入ってくれましたか、お茶は私が淹れたんですよ」
「クッキーは俺が用意したんだよう」

 転入生がうれしそうにクッキーを頬張り、お茶を飲む姿に小動物を見るような目を向けながら、副会長と会計は微笑む。

「おい、菓子くずついてるぞ」

 気に入った相手には意外と世話焼きな会長が転入生の口元を拭ってやり、転入生が礼を言おうとしたところで生徒会室のドアが盛大に開かれた。

「な、なんですっ?」
「うんこー!」
「は、はっ? え、は?」
「うんこ、うんこ、うんこー!!」
「ちょ、おまっ」

 現れたのは真面目で知られる風紀委員長。だがしかし、いまの彼は生徒会メンバーの知る姿ではなかった。
 何故かランドセルを背負い、Tシャツにハーフパンツ、膝には絆創膏を貼り付けて、リコーダーをチアガールのように華麗に回転させながらひたすら「うんこー!」と叫んでいる。
 優雅なお茶会が崩壊した。

「い、いったい何事ですかっ?」
「委員長、なにがあったのっ?」
「と、とりあえず落ち着け!」
「うるせえ、うんこうんこうんこー!! このうんこ共がひゃっはああ!!」

 生徒会メンバーが制止をかけるが、風紀委員長吹雪の暴走は止まらない。
 むしろわけの分からない掛け声まで追加され、生徒会室は混沌に包み込まれた。
 その後、吹雪の巻き起こす狂乱は十五分に渡り続けられ、生徒会メンバーはすっかり涙目になっていた。それは転入生も例外ではない。
 十五分してぴたり、と動きと叫びを止めた吹雪は「はあ」と一つため息を吐くとどんよりした目を生徒会メンバーに向ける。

「疲れた」

 ならやるなよ、と全員が思ったが、続けられた台詞に言葉を失う。

「お前らが仕事さぼるおかげで俺は疲れた。そのストレス発散にはこれしかない。お前らが仕事をサボるたびに襲撃するんでそこんとこよろしく」
「報復っ? この奇行報復だったのっ?」
「そこに驚く前にそこまで追い詰めたことに反省しましょうよ……」
「そ、そうだな……こんなお茶会してる場合じゃないな」

 普段の真面目な姿を知っている分、吹雪の奇行に生徒会メンバーは罪悪感を覚える。転入生も居心地が悪そうだ。

「仕事、してくれるよな?」
「っああ、もちろんだ!」
「ええ、ですから可及的速やかに休んでください」

 会長と副会長がぐいぐいと吹雪の体を生徒会室から押し出しにかかる。吹雪はそれに素直に従ったが、生徒会室のドアが閉まる直前、こんなことを言った。

「知ってるか? 初等部の男子生徒は本物のうんこ持って走り回るんだぜ……」

 次があればどうなるか分かっているな、と言外に含ませ、吹雪はドアの向こうに消えた。
 静まり返った生徒会室で会長の「仕事、するぞ」という声が響いた。
 ちなみに、転入生は吹雪がいつうんこを持って襲撃を仕掛けるか分からない生徒会室にはいられない、と言ってその後生徒会室に近づくことはなくなったという。

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