小説
60ラウンド




 Hortensiaは今日もミンミンジージー鳴く蝉よりも騒がしい。それというのも近々ある祭に行こうとはしゃいでいるせいだ。
 不良の集まりといってもまだまだ遊びたい盛りの十代メンバーを横目に隼は頬杖をつく。

「で、結局現状のままですか」

 中心となって騒いでいる拓馬を一瞥し、隼はくしゃり、と前髪を掻き崩す。

「おう」
「ばかだねえ」

 対する白の応えは短く、千鳥の感想もまたどこか乾いている。

 あの夜、白の問いかけに拓馬は「いいえ」と答えた。

「いいえ、どんなにおかしくても拗れてても、やっぱり俺にとってはあのひとたちが親で家族なんで、他に家族は作れません。
 それに家族じゃなくても仲間がいます。隼さんたちや日和、それにこうして態々きてくれる総長。
 だから平気です。ほんとうにいざとなればどうにでもできるんですから、俺はまだ親父たちと家族でいます」

「馬鹿みたいでしょ」と笑った顔は痛々しいものではなく、どこか晴々としていたので、白はそれ以上になにかを言うのをやめて「そうか」とだけ頷いた。
 隼はまだ物言いたげだが白に「いざというとき全員で押し入ってやろうぜ」と言われて頷くしかない。

「周囲がどうこう言ってどうなるもんじゃあないだろ。だったらここだけは、belovedだけはあいつがどうなっても受け入れていられるようにしてればいい」
「珍しいね、総長がそんなの言うなんて」
「血のつながりの強さはよく分からないけどな、執着する奴の必死さは知ってる」

 欠伸交じりに言った白に隼がぴく、と反応してじっと白を見つめる。そんな隼に千鳥は唇を結んだ。

「誰も彼も大変だな」
「総長は大変じゃないんですか?」
「背負えないもんは背負う気ねえからな」

 ならば今、白が背負っているものは全て背負いきられるものなのだろうか。
 問いかけたくなったが隼は結局千鳥同様に唇を結んだ。

「隼さん、隼さんはラムネとタピオカジュースならラムネっすよね!」

 一瞬の沈黙は拓馬が割ってはいることで霧散した。

「いきなりなんだよ」
「日和と祭の定番ドリンク語ってたらラムネとタピオカで分かれたんすよ」

 隼は固かった表情をふっと和らげ「俺はかちわり派」と答えた。
 どんなに隼が気を揉んでも拓馬にも譲れない部分がある。ならば白の言うとおりいざというときに備えていて、いまは見守るしかないと理解したのだ。

「総長、総長はなに派っすか?」
「俺もかちわり」
「千鳥さんは?」
「タピオカ増量ミルクティー」

「ラムネ派すくねえ!」と拓馬が嘆くのに三人は笑い、スツールを回転させて祭の予定を話す輪の中へ入っていく。

「祭までに課題終わらせた奴は飲み物おごってやるよ」
「マジっすか、総長!」
「マジっすよ」

 一気に盛り上がる店内は、ひっそりと存在する陰などなかったように明るい。
 夏休みはまだまだ長く、それでも拓馬の抱える問題が解決するには短い時間。
 手に負えないことがある。
 どうにもできないことがある。
 けれども、ただ無力を嘆くくらいならば笑っていたほうが何倍もいい。

「いまはそれが精一杯だなあ」

 以前ならば考えられなかった思考を小声で吐露し、白は足を組んで自らの「仲間」たちを見守った。

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