小説
新春全裸祭〜今年は合法〜(後)



「どういうことだ。混浴じゃないのか」

 葉高温泉と達筆で書かれた看板のある小屋には「男性専用」とかかれており、周囲に女性の気配はなかった。
 白はひくひくと顔を引き攣らせる。殺気じみた白の気配に慣れない四人がざっと白から距離をとるが、隼は平然と看板の一部を指差す。

「他の生き物も入ってくるらしいですよ。ほら、混合浴温泉ってそういうことでしょう」
「Disgusted!!」

 汚い客寄せPRに怒りを覚えた白は思わず叫ぶが、次いで酷く冷静な真顔で「あ、別にダブルとかじゃないんで」とステイツ生まれを否定する。ぷるぷる震える真人や顔を引き攣らせる孝則には手遅れだろう。近づきたくないという意味で。

「ふ、ふふふ、まあいいさ。動物が入る温泉は効能が確約されたようなものだからな」
「行きますか」
「おう」

 見目からして変わった二人組みが恐らく温泉にまで続く小屋へ入っていくのを見送って、残った四人は顔を見合わせる。

「どうするんだ?」
「俺は満也がいいなら構わない」
「わ、わたしもあゆ、歩がいいなら……」
「入るべきだろう」

 無論、歩の脳内はすでに全裸で恥らう真人の姿が描かれている。
 それは孝則も同じなのか、中立を挙げながら満也の肩を抱いてそっと小屋へと向かっている。
 結局、全員葉高温泉へと向かうことになった。



 葉高温泉はとても透明度の高い湯だった。それこそ、それぞれの体型がばっちりくっきり分かるくらいに。

「湯の中でタオルを使わないでください、と。寒空にフルチンか」
「総長、下品です。あと洗い場あっちみたいですよ」

 岩を切り抜いた温泉とは別に整備された洗い場には、手桶と椅子、そして手作り感あふれる石鹸が置かれている。

「おい、やけにフローラルな匂いすんだけど」
「こっちは蜂蜜ですよ」

 作ったのは明らかに女子だろう。洗ってみると肌はすべっと滑らかになった。
 体を洗い終えていざ温泉に向かえば、いつからいたのか風呂の中で胡坐をかく偉丈夫がいた。

「……湯加減はいかがですか」
「ちょーさいこー」

 織部白をして気配を悟らせなかった偉丈夫の正体を、このときも白は不信に思わず、男の向かいへと座り込む。ざばり、と温泉が流れていく。隼が並ぶように入ってきたのでその量は増していく。

「ふたりともいい体つきだな。鍛えてるのか?」

 偉丈夫の問いかけに、さてどう答えたものかと白は思案したが隼が「最近八卦掌を少し」と師匠の隣でいうものだから白も便乗して「パルクールを少々」と応えた。

「通りでお互い筋肉のつき方が違うわけだ」

 そうにっかり笑った偉丈夫は、それこそ男として憧れる筋肉のつき方をしている。隆々としているのにボディービルダーのような不自然さはなく、むしろダンサーを思わせる調律のとれた肢体だ。それは白も同じなのだが、やはり総合的には偉丈夫に劣るだろう。

「お、あっちもなかなか」

 偉丈夫の視線が体を洗い終えた孝則に向かう。全体的にがっちりしているせいか、尻もきゅっと引き締まり尻笑窪ができている。

「若い奴は筋肉つきやすくていいねえ。うちのはいつまでたってももやしで……」

 偉丈夫が嘆くとどこからともなく松ぼっくりが投げつけられた。難なく避けた偉丈夫は「な? こういう危険な生き物もいるから気をつけろよ」と微笑んだ。二個目の松ぼっくりは人為的なものを感じたが、やはり白たちは不思議に思うことなくゆったりと温泉を楽しんだ。



「わ、わたしはどうも筋肉がつき辛くて……」

 タオルで前を隠しているものの、真人の華奢な体は湯気の中でも浮かび上がりど白く美しかった。そう、それこそ真人が居た堪れなくなるくらい歩が凝視するほどに。

「いや、実に素晴らしいものだ」
「で、でも……」
「お前が許すのなら触れてみたいほどに」
「ひぇっ?」

 隣から聞こえる声を意識的に遮断しながら満也はいわれるまま孝則に体をまかせて洗われていた。

「湯気がすごいから寒くないな」
「だが、長くいても風をひく。流すから目気をつけろよ」
「ん」

 ざあっと桶のお湯で泡を流され、満也はほっとひと息吐く。ちなみに孝則は満也が何か言う前にさっさと体を洗いおえている。

「じゃ、お先に」

 未だセクハラなんだかコントなんだかわからないふたりに声をかけて、孝則と満也は温泉へと向かう。
 が、しかし。見つけてしまった妙なものにその足は止まる。
 打たせ湯に修行僧が如くあたる鴉。
 人間だったら仁王立ちかのような風格を以って打たせ湯にあたる鴉。

「……孝則、俺また疲れてるかも」
「眠くなったら負ぶってやるさ」
「うん……」



 彼らは知らぬことだが鴉天狗に遭遇した孝則と満也にそろそろ上がるか、と偉丈夫は温泉から躊躇なく立ち上がる。股間のご立派なものは視界の暴力だ。

「じゃ、俺上がるから」
「あ、はい」

 視線を逸らしながら頷いた白と隼がほっこりしてしばらく、森林に響くような怒声が上がる。

「だからっ全裸で外に出るなああああああ!!!」

 魂の叫びとはまさにこれだろう。
 六人はなにも聞こえなかったふりで呟く。

「わー、温泉きもちー」

 六人は知らない、温泉効果のとなりにある注意書きに「全裸」という項目があることを。

 全裸は時と場所と場合を考えて行いましょう。

[*前へ][小説一覧][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!