小説
クリスマスなんて廃止、廃止!
・クリスマスなんて〜の未来
・下ネタ
男盛りでつい数時間前まできゃあきゃあ騒がれていた男が二人、高架下の屋台で自棄酒に走っていた。
「今年も、今年か……!」
呻くように呟き、俊介は清酒を仰ぐ。その隣では三郎は焼いた味噌を肴に熱燗を飲んでいる。
この二人、大学デビューをとっくに果たし、無事就職してもなおぼっちった。飲み会には誘われれるし誕生日にプレゼントを貰うことも珍しくない。バレンタインデーは大きな紙袋を持参し、それをぱんぱんにして帰宅といのが定番だ。
しかし、だがしかし、ふたりには未だ越えられぬ頂きがあった。
クリスマスである。
学生時代はまだましだった。
なんといっても冬休みがあったし、二十四、二十五と二日日間の猶予があったからだ。
しかし、社会人となったふたりにはそんな猶予はない。
二十五日とはそれ即ち年末進行である。
遊び呆けている暇などない。
なまじ有能なばかりにふたりは他の社員では回せない仕事を片っ端から片付けて、気付けば完全にクリスマスムードから置き去りにされていた。
「おい、見ろよ。イルミネーションがきれいじゃねえか……」
「三郎、現実を見ろ。あれは赤提灯だ」
「俊介こそ夢を見ろよ……」
「赤ら顔の親父がサンタクロースに見えるほどやばいヤクをキめた覚えはない」
「……まあ、今年はマシだよな。仕事だったし」
仕事が忙しいという建前さえあれば、誰もぼっちには気付かない。
学生時代はトナカイのコスプレをしたりと忙しかったが、社会人になればクリスマスなんてそんなアホができる時期ではないのだ。その証拠にふたりの目のしたには隈が浮かび、顔がやつれている。
「まあ飲めよ。シャンパンじゃねえが、日本酒も悪くねえ」
「ああ、もらうとしよう。お前もほら」
互いのコップに日本酒を並々と注ぎあって――ふたりの意識は徐々に失われていった。
目が冷めた三郎はまず肩の冷えと腰の痛みに顔を顰めながら、なんだか妙に色とりどりの証明が置かれたベッドルーム内を見渡した。
明らかにラブホテルである。
むっくり起き上がると全裸の自分。これは酔った勢いで誰かを連れ込んだかなと下衆なことを考えながら隣を見て絶句する。
俊介が同じく全裸で寝ていた。
「うおおおおおい!!!」
「っなにごとだ!」
思わず叫んだ三郎の声に俊介も飛び起きて顔を顰めながら腰をおさえる。
それを見て三郎は自身の腰痛の原因に思い至り、顔を青褪めさせる。
「……三郎、お前はなんで全裸なんだ」
「気付いたら全裸だった。ついでに腰が痛い」
「俺もだ。尻も痛い」
三郎は無言で備え付けゴミ箱を確認する。俊介が縋るような顔で見てくるのが辛かったが、なんとか首を振る。
予想大当たりです。
和姦、強姦、らぶえっち、愛ある鬼畜エトセトラ。どれをお楽しみになったのかは覚えてはいないふたりだが、ぎっこんばっこん出したり入れたりくんずほぐれつやらかしたのは確実で変えようのない事実のようだ。
沈痛な顔で崩れ落ち、察した俊介も顔をおおって天を仰いだ。
「酒って、怖いな」
「ああ」
「俺も尻がいてえんだ」
「上下逆転で何回やったんだろな」
特殊な学園を卒業している故にそういった知識は豊富だが、まさかこの歳になって……とふたりは「やっちまった」感溢れる空気を背負ってため息を吐く。
時間は幸いにも明け方なので出勤に問題はないが、ふたりの精神状態に問題があり過ぎるため出社しても仕事にならないだろう。
クリスマスイブだというのになんたることだろうか。
いや、クリスマスイブだからなのだろうか。ぼっち仲間とついにいくとこまでイッてしまった。
これが神様からの贈り物だというのなら三郎と俊介は神をも殴りつけることを厭わない。
「……出るか」
「ああ、出よう……」
いつまでもラブホテルにはいるのは気が引ける。
どうやらシャワーだけは浴びていたらしいので、お互い背を向けながら着替え終わるとブラック企業の社畜が如き顔でラブホテルをあとにする。
しかし、ふたりは知らない。
今日はイブで明日はクリスマス本番。
年末進行に忙殺された頭がなにをどうシナプス繋げたか知らないが、今度は社内プレイでうっふんあっはん性夜を過ごすはめになることを……。
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