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短文
雪の・道の・綺麗な
夜に雪が降った後の道。

白くなった土を踏み締めて歩く。

サク

サク

サク

サク

草履で丸い足跡を残して。

吐いた息が真っ白に、空の灰色に溶ける。

雪の白と、息の白。

交互に楽しみながら、薬売りに着いていく。

「‥‥‥気をつけないと、転びますよ」

薬売りが小姑のように呟いた。

「そんな簡単に転びま‥‥‥うわっ?!」

つるんと滑る地面に足を取られて、成す術もなく雪の上に尻餅をつく。

薬売りの忠告から二秒ともたなかった。

「‥‥‥言った傍からこける、とは」

眉間に皺を寄せて、面倒臭いと表情で語ってくる。

「うう‥‥だってえ‥‥‥」

反論したいのに痛みから声が上手く出ない。

着物にじわじわと雪が染みてくる。

でも腰を強く打って動けない。

「く‥‥‥薬売りさん‥‥‥!」

助けを求めると、薬売りは溜め息を吐きながらも手を差し出してくれる。

しかし私はその手を握ると、力強く全体重をかけて下に引いた。

いくら薬売りとはいえ、流石に突然のことには対処しきれない。

がくんと薬売りの体勢が崩れて、綺麗に転んだ。

私の上に覆いかぶさる形で。

「‥‥‥なんですか」

薬売りの目がぐっと細くなる。

これは怒っているな。

「だって一人で転んでいるの恥ずかしかったんです」

そう訴えると、薬売りは暫く黙った。

そして、ゆっくりと近くなって。

ちゅっ

軽く触れるだけの、キスをした。

「な、な、なー?!」

こんな道端で転んだまま何を?!

「‥‥‥転んで、ただで起きるつもりは、ありませんから」

薬売りの口角が緩やかに持ち上がる。

今の私の頬は、寒さのせいだけではない赤みを帯びているに違いない。

「さて‥‥‥行きますか」

いつの間にか立ち上がった薬売りが手を伸ばしてくる。

今度こそ私はその手に捕まって立ち上がる。

その勢いに任せて、薬売りの頬に。

ちゅっ

軽い音を立ててから、離れる。

「私も、ただで起きたくありませんからっ」

自分で言っておきながら恥ずかしい台詞。

雪も溶かせるぐらい熱くなった顔を隠すように、薬売りにもたれた。

「‥‥‥これは、参りました」

そう言った薬売りを見るが、言葉に反して余裕の笑み。

ああもう、どうしたら貴方の頬は朱色に染まってくれるんですか?


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