支部 
【YOI】第9滑走予想
とりあえず、8話見終わりましたが。
いや、9話気になりすぎる。

というわけで、9話妄想。



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「ヤコフ、明日一日だけ勇利のコーチをお願い!」

「「「はぁー?!」」」

驚きに声を上げて固まった三人だったが、その中で一番初めに動いたのは勇利だった。
「ヴィクトル!何言ってるの?!」
「勇利を一人にして日本には戻れない!ヤコフなら、俺が信頼してるコーチだから…」
「ヤコフコーチだってユリオのコーチがあるでしょ?!我が儘言ったらダメだよ!」
「でも…」
いつもとは違いあからさまに狼狽えているヴィクトルの姿に一瞬呆気に取られるが、勇利はすっと目を細めてヴィクトルの顔を両手で掴み無理矢理に目を合わせる。

「ヴィクトル。中国大会の時に言っただろ。
 『僕が勝つって、誰よりも信じていて』って。
 だから、ヴィクトルは僕を信じて日本に戻って。戻ったら、マッカチンの無事を確認すること」

勇利の言葉にヴィクトルは眉尻を下げたまま首を緩く横に振る。

「勇利...俺は…」

「ヴィクトル!!」

珍しく声を荒らげた勇利に驚いて固まったが、一つ瞬きをするとヴィクトルは勇利の手を取り、片膝をついて勇利を見上げた。
二人の視線が真っすぐにぶつかり合う。
そこには信頼という文字しかないように、誰の目にも見えた。

「…俺は勇利が勝利することを誰よりも信じている」
「うん」
「マッカチンのことが分かったら、連絡するから」
「うん」
ヴィクトルの顔がじわりと歪む。
「…、…ありがとう。勇利」
「行って、ヴィクトル」

泣きそうな顔のまま一つ頷き、ヴィクトルは走り出した。

その後ろ姿を確認し終わると、勇利はヤコフに視線を向け、深く頭を下げた。
「…すみません。お騒がせして」
「…いや。こちらこそ、不出来な生徒ですまないな」



***



『ヴィクトル・ニキフォロフコーチは愛犬の体調不良により、一時、日本に戻っているとの情報が入っています』


大丈夫。
ヴィクトルが信じていてくれる限り、僕はここで戦える。




『勝生勇利、フリープログラムはジャンプのミスは一つありましたが、流石の表現力で締めくくりました!』

氷上の真ん中で、最後のポーズを取りながら音楽が止むのを待つ。
観客達の歓声も凄まじく、勇利は心からの微笑みを浮かべた。
前より、いい演技ができた。
そんな気持ちを含みながら、静かに手を下ろす。

「(最後のフリップ、成功した!
 ヴィクトル、僕…!)」

いつもならばそこにいるはずのヴィクトルの姿を探すが、勿論、そこには誰もいない。
一瞬の静寂の後、勇利は静かに目を伏せた。

「(…そうだった。ヴィクトルはここにはいない…)」

一つ頷き、勇利は観客に深く深くお辞儀をして、リンク脇へと滑り出す。
観客はスタンディングオベーションだと言うのに、勇利の心は今までにない程に沈んでいた。

「(…ヴィクトルに褒めてもらいたかったな…)」

マッカチンを模したティッシュケースを掴み、独り、キスアンドクライに向かう。
ティッシュケースと一緒に置いていた携帯を落としたことにも気付かず、勇利はキスアンドクライのイスに座った。

「(そういえば、眼鏡がないと点数見えないんだよな…)」

今までは横にいたコーチが点数を教えてくれた。
ヴィクトルがいない今、歓声を頼りに点数や立ち去るタイミングを見計らわなければならない。

重く、息を吐く。

『勇利、ファンサービスは大事だよ!ほら、手を振って?』

ふと、そんな声が聞こえた気がした。
横を向いても、もちろん誰もいない。

けれど、勇利は小さく微笑んで、テレビカメラに向けて柔らかく手を振った。

「おい、豚」
「え?ユリオ?」
自分より先に演技を終えたはずのユリオが、仏頂面でそこに佇んでいた。

「携帯鳴ってんだよ。さっさと取りやがれ」
差し出された携帯は勇利本人のもので、勇利はおもむろにそれを受け取ると、振動し続けている画面をのぞき込む。


ヴィクトル・ニキフォロフ


はっと目を見開いて急いで通話ボタンを押す。

「ヴィクトル?!」
「あ、勇利?!四回転フリップ成功したね!アメージングだよ!勇利!」
いつも通りのヴィクトルの声色に、思わず涙ぐみそうになりながら、勇利は小さく頷いた。
「うん…。あ、マッカチンは?!」
「大丈夫!大事には至らなかったよ!」
「そっか、良かった…」
安堵の息を吐いた勇利を追うように、会場全体から歓声が上がる。

「え?」
「ちっ、お前が二位かよ」
ユーリの舌打ちとその台詞に、勇利は自分の得点が出たのだと悟る。
自分が二位ということは、グランプリファイナルへの出場が確定したわけで、つまりはヴィクトルとのコーチ関係は継続ということになる。

「グランプリファイナルでは俺が優勝を頂くからな!!」

ユーリの怒声も会場の声援も今の勇利の耳には全く入ってこず、ただただ嬉しさだけが込み上げていた。

「…っ、…うっ……」

静かに泣き出した勇利にユーリは慌てるが、すぐに仕方なしと息を吐いて、勇利の頭を軽く撫でた。

「…ユリオ…?」
「さっさと取材に応じて、さっさと日本に帰れ。
 ...ヴィクトルが待ってんだろ!」

ふんっ、とそっぽを向いたユーリはそのまま立ち去ってしまったが、勇利は小さく微笑んで立ち上がった。
会場の歓声に手を振って応え、キスアンドクライを後にした。












ーあとがきー
雪の日だったので、早起きして会社近くのカフェで朝ごはん中に書いちゃいました。
来週が楽しみすぎる。








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